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ワニの刺身は透き通るようなピンク色だった!――高野秀行のヘンな食べもの

2017年9月12日 17時00分 (2017年9月15日 12時41分 更新)

『古事記』に「因幡の白兎」という有名な物語がある。兎が海を渡るのにワニを騙して水面に並ばせ、その上をひょいひょい伝って歩くが、最後の最後で嘘がばれ、怒ったワニに皮を剥ぎ取られてしまうという話だ。私は昭和四十年代にこの伝説を絵本で読んだのだが、そこでは本当に爬虫類のワニの上を兎が歩いていた。


 あとで考えれば、日本にワニは生息していない(海にも棲んでいない)。ワニとは「和爾」と書き、古語で「鮫」のことなのだ(今でも出雲地方では「ワニ」)。恐らく、無知な編集者がワニ=爬虫類だと思い込み、そういう本を作ってしまったのだろう。古き良き昭和のお話だ。おかげで私は大人になって初めて自分が騙されていたことを知ったのだった。


 ワニは古代、日本人には身近にして重要な魚だったらしく、貝塚でも鮫の骨が発見されているし、『風土記』や『延喜式』にも鮫漁について記述がある。また、今でも伊勢神宮には鮫の干物がお供えされるそうだ。


 そんな由緒あるニッポンのワニ(鮫)を広島県の三次(みよし)市というところで今でも郷土料理として食べていると聞き、驚いた。私はアマゾンやコンゴでは爬虫類のワニを食べているが、日本の「ワニ」は食べたことがない。どんな味がするのだろうか。広島市で講演会があったので、その帰り、県内(福山市)在住の友だちに車を出してもらい、三次市を訪れた。


 瀬戸内側から行くと、三次市は遠い。「山奥」という印象だ。それもそのはず、ここは広島県ながら、地理的にも文化的にも島根県に近いのだという。

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