1月14日からサービススタートしたDMMのオンラインゲーム「刀剣乱舞」。日本海軍の艦船を擬人化した「艦隊これくしょん」で大ヒットして、一気に増えた擬人化ソーシャルゲーム。
「俺タワー」「御城プロジェクト」「車なごコレクション」などに続いて、今度は「刀剣」をイケメン男子に擬人化だ!

西暦2205年。歴史改変を目的とする「歴史修正主義者」によって、過去への攻撃が始まった。それを阻止するべく送り出された「審神者(さにわ)」は、物の想いや心を目覚めさせ、戦う力を与える能力を持っている。審神者によってふたたび生を与えられたのは、刀剣の付喪神「刀剣男士」。歴史改変をはたして防ぐことができるのか──?

原作はニトロプラス。世界観監修・シナリオは「ガンパレード・マーチ」の芝村裕吏だ。
海法紀光とAkiharu Szuharaらも参加している。

「刀剣乱舞」は、スタートしてまたたく間にユーザーの心をつかんだ。主に女性ユーザー、言ってしまえばオタク女の心をガッチリ握ったのだ。もちろん私も例外ではない。
なぜ「刀剣乱舞」はオタク女の心をこうも掴んだのか? 4つの方向から考えてみた。
刀剣をイケメン男子に擬人化「刀剣乱舞」がオタク女の心をつかむ4つの理由
刀剣をイケメン男子に擬人化した「刀剣乱舞」。加州清光

1:ただのイケメンじゃない 「トラウマ持ちのイケメン男子」需要



「刀剣乱舞」の刀剣擬人化男子、「刀剣男士」たちは、揃いも揃ってイケメンだ。こう書くと「イケメンならなんでもいいのかよ」とツッコミが入ってくるかもしれない。
とんでもない! 今のご時世、単なるイケメンキャラは山ほどいる。イケメン要素は確かに重要だが、それだけでは足りない。
ここ最近のオタク女ウケするキャラクターはだいたいみんな「トラウマ」を持っている。トラウマとまではいかなくても、挫折していたり、裏切られていたり、強いコンプレックスを持っていたり、心を閉ざしていたり、人と深く付き合えなくなっていたり、ざっくり言えばかわいそうな目に遭っている。そのトラウマを解消してあげることが、恋愛や友情のきっかけになるという構図だ。
刀剣男士は刀剣だ。
人を斬って殺す道具。元の持ち主の多くが戦いの中で死んでいるし、中には自害に使われることもある。刀剣男士たちはその記憶を持っているので、どこかに陰のあるキャラクターが多い。

たとえば、加州清光。沖田総司の佩刀(はいとう。持っている刀)といわれている。
「扱いにくいが性能はピカイチ」と自称する清光は、戦闘で負傷すると「……こんなにボロボロじゃあ、愛されっこないよな……」、傷を癒してあげると「修理してくれるって事は、まだ、愛されてんのかな」とぼやく。お前……どれだけ愛に飢えてるんだよ……。
「山姥切」を模して造られたとされる山姥切国広も、トラウマが炸裂している。自分が偽物ではないかという考えをこじらせきっているのだ。「俺は偽者なんかじゃない」「綺麗とか、言うな」……ああ、めんどくさい!

刀剣男士たちは、だいたいめんどくさいキャラばかりだ。たまにいるめんどくさくないキャラも、「もしかしたら一周まわってめんどくさいのでは?」という気持ちになる。
「うるせー! 太陽光を浴びてセロトニンを出せ!」と言いたくなるが、そこにオタク女は惹きつけられてしまう。
刀剣をイケメン男子に擬人化「刀剣乱舞」がオタク女の心をつかむ4つの理由
コンプレックスたっぷりの山姥切国広。めんどくさい(褒め言葉)

2:腐女子も男女カプ者もドリームも安心 「審神者」設定の曖昧さ



「刀剣乱舞」のプレイヤーポジション、「審神者」。審神者がどういうキャラなのか、刀剣男士たちが審神者にどのような感情を抱いているのかは、曖昧にしか描写されていない。
「艦これ」の提督は、キャラはいまいちよくわからないものの、あからさまに好意を示してくる女性キャラたち(いわゆる「提督ラブ勢」といわれる艦娘)は多い。「ケッコンカッコカリ」システムもあって、キャラとプレイヤーの関係は恋愛に近いように見える(一部キャラは恋愛とは異なる態度をとる)。
しかし、「刀剣乱舞」の審神者からは、あまり恋愛色を感じない。「感じようと思えばそこはかとなく……」くらいのレベルに抑えられている。
これはおそらく意図的なものだ。

一口に「オタク女」といっても、中にはたくさんの派閥がある。
男性キャラどうしの恋愛を好む「腐女子」、男性キャラと女性キャラの恋愛を好む「男女カプ者」、男性キャラと自分の恋愛を好む「ドリーム」。「男女カプ者」と「ドリーム」の中間には「乙女ゲー者」もいる……彼女たちはみなオタク女だが、好きなものは少しずつ違う(ちなみに百合好き層もいるが、「刀剣乱舞」とはちょっと話がズレるのでおいておく)。
もし刀剣男士が全員「審神者ラブ勢」だと、刀剣男士×刀剣男士に萌えている人にはあまりおいしくない。かといって、まったく刀剣男士が審神者に興味を抱いていなければ、刀剣男士×自分にときめく層には届かない。
審神者の設定が曖昧だからこそ、「オタク女」という意外にややこしい集団の多くが楽しめるものになっているし、男性ユーザーも楽しめる。この辺りのさじ加減は、男性向けのゲームも女性向けのゲームも作ってきたニトロプラスのノウハウがフルに発揮されている。
刀剣をイケメン男子に擬人化「刀剣乱舞」がオタク女の心をつかむ4つの理由
「刀剣乱舞」戦闘部分

3:提督から審神者へ ゲームシステムのわかりやすさと追加要素



「刀剣乱舞」のゲームシステムは、基本的には「艦これ」に似ている。最大6人の刀剣男士でユニットを組んで出撃する。戦闘は基本オート&ランダムだが、陣形や進撃/撤退を選ぶことができる。刀剣男士はレベルアップし、一定レベルに達すると進化する。
登録者数が240万人を突破している「艦これ」。もちろん中には女性も多い。「艦これ」で提督業をやっていたプレイヤーは、自然に「刀剣乱舞」を遊ぶことができる。実際、Twitterやwikiなどで行き交う攻略情報は、「艦これでいうと〜」といった表現が目立つ。
ただ、「艦これ」は細かな実装や仕様変更によって、戦術が立てやすくなった半面、やるべきことが多くなってしまった。「刀剣乱舞」はシンプルなので、基本に立ち返っている印象だ。

違う要素もある。「疲労」の影響度やレベル補正、ダメージを一定以上受けた時に威力が増す「真剣必殺」などの違いが目立つが、プレイしていて一番印象が強いのは「刀装」。敵からのダメージを受け止めたり、ダメージを上昇させたり、先制攻撃をする装備システムだ。刀装を充実させれば刀剣男士が傷つきにくくなるので、ぶっ続けでプレイできる。「艦これ」はどんなにレベルを上げても、負傷を避けるのは難しい。
また、特定の刀剣男士どうしで会話が発生する要素もある(これは「艦これ」でも待ち望まれている))。「内番」システムでは、ふだんよりラフな格好をしている刀剣男士を見ることもできる。
個人的には、「俺タワー」のお風呂システムがほしいです……。
刀剣をイケメン男子に擬人化「刀剣乱舞」がオタク女の心をつかむ4つの理由
装を充実させて刀剣男士を守ろう

4:だって芝村裕吏だよ? ストーリーの意味深さ



監修・シナリオを担当しているの芝村裕吏は、設定の鬼だ。これまで作ってきた作品は実はすべてつながっているし、ほんの脇役にも裏設定をつけまくっている。そんな芝村作品の中で「刀剣乱舞」だけがなんの裏設定もない──んなわけねえだろ! とどうしても疑ってかかってしまう。
歴史を改変しようとする敵を防ぐために、審神者と刀剣男士は時を遡る。最初のステージは江戸時代だが、ステージが進むとともにどんどん昔の時代になっていく。
歴史修正主義者たちは、日本の歴史の大きな岐路になっている事件を改変しようとしている。たとえば新撰組を救ってみせたり、家康が江戸幕府を造る前に暗殺することを企てたり、信長の死を阻止しようとしたり……。
いやいや、ちょっとストップ。信長の佩刀とされているへし切長谷部や宗三左文字にとっては、歴史修正主義者が勝つ=元の主が死ななくてすむ、ということになってはいないだろうか? ある意味、元の主が死ぬことを願っている構図だ。刀剣男士のメンタルが心配!
歴史修正主義者たちの意図は、ゲームを進めれば進めるほどわからなくなってくる。本能寺の変で信長の死を防ごうとしたかと思いきや、長篠の戦いで信長の発砲隊を無力化しようとしている。いったいどのように歴史を修正したいのだろう?
もしかしたら考えすぎかもしれない。でも、芝村裕吏なのだ。なにかしら筋の通るストーリーを用意していて、怒涛の裏設定にオタク女のみならずすべてのオタクが「ヒエ〜ッ!」となるんじゃないかと、ちょっぴりわくわくしている。


めんどくさいオタクによって作られた、めんどくさいオタクをわしづかみにする、めんどくさい男子ばかりのゲーム。それが「刀剣乱舞」だ。

(青柳美帆子)