〈いまだライターとしての方向性を決められずにいるのも、考えてみれば情けない。業界の人たちも、いつまでも駆け出しだからと大目に見てくれないに決まっている〉
フリーライターになって1年半。初めての著書、『サラブレッドファン倶楽部』がまったく売れなかったとき、北尾トロはそう思った。
〈でも、いまさらバイト生活に戻る気はない。ここで逃げたら、何をやってみたってうまくはいかないだろう。ダウンはしたけど、まだKOされたわけではないのだ〉
『昭和が終わる頃、僕たちはライターになった』は、北尾トロと下関マグロがライターという職業に関わるようになった1983年から、昭和が終わる1988年までの6年間を描く〈青春ボンクラエッセイ〉。トロ編とマグロ編を交互に挿入する構成で記している。
25歳だったふたりが、30歳になるまでの物語でもある。はじまりは、今年で24歳になる今の俺とほぼ同年齢だ!
北尾トロ(伊藤秀樹)と下関マグロ(増田剛己)は、売れない時代を一緒に過ごしてきたライター仲間。これまでに『おっさん傍聴にいく! 最近の裁判所でのあれやこれやをグダグダ語ってみる。』『おっさん糖尿になる! コンビニ・ダイエットでいかに痩せたかをチラホラ語ってみる。』などの共著がある。
大学卒業後にバイトとして入った編集プロダクション、イシノマキ。この会社は、経費が増えたぶんギャラが減るシステムが敷かれていて、ライターやカメラマンにはいつも少額しか払えない。もっと払ってあげたいのに、自分で原稿を書き、経費を調整し、いつもより多めのギャラを捻出するなど、家計のやりくりみたいなセコいやり方しかできない。そんな生活に嫌気がさし、イシノマキを辞めフリーになることを決意したとき、トロはマグロと出会う。
〈いつも壁際にポツンと座り、企画書らしきものを書いている増田剛己という同年代の男がいた〉〈何かとてもつらそうだが、増田君にはここにいなければならない事情がありそうだった〉
実はマグロは、トロが辞めた穴埋めとしてイシノマキに雇われていたのだ。
〈ぼくの後任候補ではなさそうだ〉。そんなことはまったく知らないトロ。
マグロも、〈伊藤秀樹も、夕方になると会社にきていた男、くらいの印象しかなかった〉。夕方になると会社に来て、下手なエレキギターをかき鳴らしているし、イシノマキがプロデュースしているコンサート事業にPAとして参加していたのを見て、〈きっと音楽畑の人なんだろうと思ったりもした〉と、トロがライターかどうかなのかすらわかっていない。…