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視聴率のために殺人を見世物にする世界!?『死のテレビ実験』

2011年9月7日 11時00分

ライター情報:香山哲

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『死のテレビ実験---人はそこまで服従するのか』クリストフ ニック (著)、ミシェル エルチャニノフ (著)、高野 優 (翻訳) /河出書房新社
テレビ番組の環境下では、81パーセントの人が「もうやめて!心臓が痛いんだ!」と言っている相手にも電気ショックを流してしまう。

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クイズ番組に出演した一般人二人組。二人は初対面で、一人は回答者、残りの一人は出題者になる。回答者は何度間違えてもいいが、間違えるたびに出題者から罰を受けなくてはいけない。テレビでたまに見るルールだよね。

ところがこの本に載っている番組はニセモノの番組で、心理学実験のために企画されたクイズ番組だ。回答者が間違えるたびに出題者は「電気ショック」を与える。間違えを繰り返すたびに、その電圧が20ボルトずつ上がっていく。苦しむ回答者をよそに、司会者が「さあ続けてください!」、ADが合図をして観客が「おーしおきっ!おーしおきっ!」と促すと、出題者は電気ショックを流すレバーを押してしまう。まあこれも、よくあるシーンだね。

ただこの番組では回答者は「もうやめてくれ!」と泣き叫び、最後には何もしゃべらなくなる(というシナリオで実験を進める)。それでも最後(460ボルトの電気ショック)までクイズが進行させる割合は、全出題者の81パーセントを記録した。テレビ番組という非日常世界に巻き込まれた人は、その大多数が、お祭り騒ぎに追従して人をも殺してしまうかもしれないという恐ろしい結果だ。

これはフランスで2009年に行われた社会心理学の実験で、元々は1960年代初めにスタンレー・ミルグラムという学者が行った「服従実験」、通称「アイヒマン実験」の現代版アレンジなんだ。ミルグラムの実験では、クイズ番組じゃなくて試験問題。「先生役」と「学習者」に分かれて、あとは大体一緒。先生役が罰を与えるのを躊躇していると付き添っている科学者が「続けてください」と促す。学習者は実は役者で、何問目に間違えて、電気ショックでどんなリアクションをとるかまで録音で決まっている。

だんだん学習者のリアクションが「痛い!」「もうやめてくれ!」「ここから出してくれ!実験は終わりだ!」と叫ぶようになってくると、先生役の被験者もうろたえはじめる。実験を中止したいだとか抗議しだすと、科学者は

(1)「どうぞ続けてください」
(2)「続けてもらわないと、実験が成り立ちません」
(3)「続けていただくことがどうしても必要なのです」
(4)「あなたには選択の余地はありません。続けなくてはならないのです」

と、だんだん強く服従を迫ってくる。セリフ(4)にも負けずに抗議すれば実験終了。服従しなかったことになる。実験は「記憶に関する実験に協力してもらう」という条件で開始されるので、従わなくても被験者は何の身の危険とか損害はないんだけど、「科学者」という権威を前にした被験者の62.5パーセントは、服従して、最後まで電気ショックを与え続けてしまう。

ライター情報

香山哲

漫画やゲームを制作するチーム「ドグマ出版」主催。著作に『ランチパックの本』や『香山哲のファウスト1』(文化庁メディア芸術祭推薦作品)など。

URL:Twitter:@kayamatetsu

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