野球部1年っっ オグマナオトぉ 
好きな食べ物はぁ ナス炒めですぅ

(音量レベル最大の雰囲気でお読みください)

野球部に入部早々バックネットを背にこれを叫ばされた13歳の春。他の部活動の皆さんにクスクス笑われて、今思い出しても寒気が襲うエピソードです。
(なんで“好きな食べ物”叫ばされたんだ?? もっとこう目標とか抱負とかさぁカッコイイのあるでしょうに…)
野球部出身者なら「あるある」と言ってもらえるであろう、新入部員が毎年春にやらされるこの“声だし”って一体なんなんでしょうね? 中学高校の部活動にとどまらず、プロ野球でも毎年のキャンプで抱負を叫ぶ新人選手、というのはスポーツ新聞のお約束の話題です。なのに、他のスポーツおよび部活動でやってるのはほとんど見たことありません。
自分は中学3年間だけの“へたれ野球部員”ですが、わずか3年の経験だけでもこうした“野球部あるある”はいくらでも思い出されます。そんな「他の部活動では見ないけど野球部だけに存在する不思議なあるある」をまとめた本が今話題なんです。その名もズバリ『野球部あるある』。先月初版が発売されるも大人気で、書店だけでなくamazonでも品切れ状態。
増刷が決定してようやく手に入りやすくなってきたところです。

この『野球部あるある』、タイトル通り400にもおよぶ“野球部ならではのあるある“が紹介されていて、野球部出身者ならどこを切り取って読んでも思わずニヤっとしたり、酸っぱい思い出がこみ上げてくるエピソードばかり。
・親に背番号を縫い付けてもらうが、貼る位置が下過ぎる
・練習試合の合間に勃発する「トンボ争奪戦」
本のカバーで紹介されているこの2つだけでも、あるある!とうなずいていただけると思います。

筆者の“菊地選手”は雑誌『野球小僧』『高校野球小僧』『中学野球小僧』の編集者で、「菊地選手の一日体験入部」「菊地選手の突撃!隣の強打線」といった体当たり取材も担当する元高校球児。この本はもともと菊地選手のTwitterでのつぶやきが発端になっているのですが、書籍化にともない「“現代野球部あるある”を探しに行く」「野球部あるある都市伝説」の企画で得意の野球部取材が敢行されていて、「野球部研究書」としての深みが増しています。またイラスト担当のクロマツテツロウ氏も元高校球児だけに、実感こもった挿絵がまたいい味出してます。


全体的に軽いノリではありますが、最後のあとがきではちょっと考えさせられる一文も。
<野球部ー。僕はこんなに全国にありふれているのに、異常な空間を他に知りません。(中略)全員が坊主頭で、監督に絶対服従で、上下関係が厳しくて、変なしきたりや言い伝えがあって、練習中は奇声を発する……冷静に考えると、こんな集団、奇妙すぎて仕方がないと思います>
自分もその一員だったからかこれまであまり違和感を感じてなかったのですが、こうして文字にしてみるとその特異性がはっきりとわかります。うん、野球部って組織、絶対ヘン! なのに社会に広く認知され、学校の部活動では王様的存在で、春と夏の甲子園大会にいたっては国民的行事…
野球人気の凋落!なんてことが言われて久しいですが、これだけ変な組織が社会に認知されてるんだから人気どうこうじゃなくもはやひとつの文化なんだな、という考えに至ります。人気なら回復するものだけれど、文化なら見直すもの。
全国に何百万人もいるであろう元野球部員が率先して「野球ってナンダ?」という視点を持てば、まだまだ新たな魅力が再発見できるはず。この本はそのための重要な教科書になると思うのです。

最後にこの本を読む上での注意事項を2点ほど。
電車で読む場合はつい吹き出してまわりの乗客に嫌な顔をされるのは避けましょう。<野球部あるある32:集団で同じ車両に乗って、乗客に迷惑がられる>にあるように、ただでさえ野球部は電車で肩身が狭いんですから。
あと、現役野球部諸君は学校で読むのも要注意。
ページめくりながらヘラヘラしてると<野球部あるある36:野球部を目の敵にしているとしか思えない先生がいる>場合に格好の餌食になっちゃうよ。(オグマナオト)