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ラーメンは民主主義のメタファーなのか?『ラーメンと愛国』

2011年11月14日 11時00分

速水健朗『ラーメンと愛国』講談社現代新書
カバーのカラーは、日清食品のチキンラーメンのパッケージの色からとったものだとか。秋の夜長、チキンラーメンを夜食に食べながら読みふけりたい

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詩人・歌人として、あるいは劇団「天井桟敷」の主宰者として演劇や映像の分野でも独特の活動を展開した寺山修司。その代表的な著書『書を捨てよ、町へ出よう』には「歩兵の思想」と題するエッセイが収録されている。この文章のなかで寺山は、サラリーマンの種類を「ライスカレー人間」と「ラーメン人間」に分け、前者には《現状維持型の保守派が多くて》、後者には《欲求不満型の革新派が多い》としている。その理由を《ライスカレーは家庭の味であるのにくらべて、ラーメンは街の味であるからかもしれない》と書き、さらにライスカレー人間を保守的なマイホーム人間として強く罵倒しているのが、いかにも「町へ出よう」と生涯かけて訴え続けた寺山らしい。

寺山が先のエッセイを書いたのは高度成長期。この時代、ラーメンはハングリー精神の象徴であった。マンガ家の松本零士は上京当初の下宿生活の経験をもとに『男おいどん』という作品を発表、そこでは作者の分身たる主人公“おいどん”が近所の中華料理屋でラーメンライスを愛食するさまが描かれた。松本零士にとってラーメンは、貧乏な独身時代の記憶と分かちがたく結びついた食べ物だったのだ。

だが、いまラーメンはけっして安いものではなくなっている。速水健朗『ラーメンと愛国』によると、1990年代以降の不況下にあって外食産業では全体的に価格競争が進んだものの、ラーメン業界だけは例外だという。1990年に450円だったラーメン一杯の平均価格はそれ以降右肩上がりで上昇し、2007年には569円まで上がっている(総務省統計局「小売物価統計調査」)。価格だけではなく、かつて中国文化の装いに包まれていたラーメンのイメージ(ラーメン屋の意匠は雷紋や赤い暖簾が定番であり、『キン肉マン』でも中国代表の超人はラーメンマンだったし、インスタントラーメンのCMでも「中国四千年の味」というフレーズが流行った)は、いまや店員が作務衣風の服を着ていたりすっかり和風に変わった。戦後の日本でこれほどまでに社会的位置づけ、イメージが変化した料理も珍しいかもしれない。『ラーメンと愛国』はそんなラーメンの変化について、全編にわたって斬新な切り口で検証した好著だ。

本書では、屋台や店頭で供されるラーメンだけでなく、インスタントラーメンが誕生し普及する背景や経緯にもかなりのページが割かれている。そこでの主役は日清食品の創業者であり、1958年にチキンラーメンを世に送り出した安藤百福だ。

ライター情報

近藤正高

1976年生まれ。サブカル雑誌の編集アシスタントを経てフリーのライターに。著書に『私鉄探検』(ソフトバンク新書)、『新幹線と日本の半世紀』(交通新聞社新書)。一見関係なさそうなもの同士を関係づけてみせる“三題噺”的手法を得意とする。愛知県在住。

ツイッター/@donkou
ブログ/Culture Vulture

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