『スーパースターズ編』開幕に際し、パ・リーグに明訓野球部中心の「東京スーパースターズ」と犬飼兄弟らライバルたちを集めた「四国アイアンドッグス」という2球団を増やした水島先生が今回打ち出した企画は、セ・リーグにも2球団増設してセ・パ16球団制にすること。ちなみにその2球団とは『野球狂の詩』でおなじみ・“球聖”岩田鉄五郎が監督を務める「新潟ドルフィンズ」と、明訓五人衆のひとりにして広島にトレードに出された微笑三太郎がなぜか率いることになった「京都ウォーリアーズ」。この16球団時代を記念して開催されるのが、負けたら終わりのトーナメント戦です。すでに連載では2話目まで描かれ、さっそく“光の小次郎”こと新田小次郎が登場。
水島先生自ら、<この両チームには、この40年間で私が育てた他作品のキャラクターもどんどん入れ、打倒山田スターズに挑むという夢のトーナメントシリーズを設定しました>と語っています。そうです、あのオールスターキャストで描かれた『大甲子園』の夢、ふたたびです。本日4月10日はなんと水島先生の73回目の誕生日。そこで誕生日を祝し、さらには新シリーズをより楽しむために、これまでの水島ワールドを今一度振り返ることで今後の展開を予想してみたいと思います。
『男どアホウ甲子園』
(1970~75:小学館・少年サンデーで連載)
水島漫画の代名詞として『ドカベン』が光の象徴なら、影の代表格がこの漫画であり藤村甲子園。
『光の小次郎』
(1981~83:講談社・少年マガジンで連載)
連載の中で既に登場を果たしたのがこの作品の主人公・新田小次郎。
先週のチャンピオンで「6年前に怪我で引退した」という設定が判明しましたが、どんな怪我だったのか、「光る速球」はもう投げられないのか(投げられたとしても、あの球は恋女房・山本武蔵しか捕れない球なのでキャッチャーをどうするのか)という展開を要チェックです。
『ダントツ』
(1982~83:秋田書店・少年チャンピオンで連載)
大甲子園組でまだプロ野球編以降のドカベン世界に登場していなかったのが『ダントツ』。エースの荒木新太郎が小さな巨人・里中智と瓜二つ、という設定だったため、通常連載では描き分けが面倒くさかったのしかもしれません。また、この作品は主人公が監督・三郎丸三郎だったので、こちらの再登場をどう描くのか。監督経験のない微笑三太郎のサポート役、なんていうのはどうでしょうか。
『極道くん』
(1984~87:講談社・少年マガジンで連載)
主人公は京極道太郎。
『ストッパー』
(1987~92:スコラ・コミックバーガー(現コミックバーズ)で連載)
主人公は三原心平。セ・リーグの大阪ガメッツ(のちに大阪ドリームス)所属。水島作品では珍しくストッパーに焦点を当てた作品だったのですが、連載が進むと三原は快足巧打のセンターとしても活躍。
この『ストッパー』は『野球狂の詩』の兄弟作品と見ることもでき、東京メッツの面々も多数登場。岩田鉄五郎との数々の名勝負を繰り広げてきた経歴があるだけに、ここは京都入団を予想します。
『虹を呼ぶ男』
(1987~89:秋田書店・少年チャンピオンで連載)
日本人最高年俸(当時)の3億円でヤクルトに入団した七夕竹之丞。長嶋一茂のヤクルト入団で、七夕と一茂のレギュラー争いがストーリーの主軸となるはずが、現実世界での一茂成績不振もあってか人気が低迷したためか後半はなぜか相撲漫画に。ちなみにドリームトーナメントの開催は3月。3月と言えば大阪場所。甲子園からも近いので、今作でも、野球の後に相撲に向かう姿を目撃することができそうです。
『おはようKジロー』
(1989~95:秋田書店・少年チャンピオンで連載)
今回一番の注目新人選手は、間違いなくKジローこと岡本慶司郎でしょう。打撃に関しては山田太郎に匹敵する才能。おまけに投手以外どのポジションでもこなせる野球センス。問題は高校時代までしか描いていないKジローをどういう経緯でプロ入りさせるのか。もうすでにドラフトは終わっている設定なのでどこからか発掘してくる必要があります。「Kジローの<K>は京都の<K>」って言いそうなので京都入団と予想します。
過去の水島作品でまだドカベンシリーズに登場していない主な注目プレイヤーは以上ですが、すでに登場を果たしているキャラクターも一応おさらいしておきましょう。
『一球さん』
(1975~77:小学館・少年サンデーで連載)
忍者の末裔、真田一球が繰り広げる超人的なプレーの数々と、素人ならではの奇抜な発想で描いた新感覚野球。『大甲子園』でも明訓と熱戦を繰り広げた後、『スーパースターズ編』の途中から呉九郎とともに楽天に入団しています。今回の新シリーズで期待したいのは、「三球士」こと堀田・司・一角の復活。新チームは確実に野手が手薄になりそうなので活躍のチャンスはあるハズ。一球さんのトレードとともに新チームに一斉入団なんてどうでしょうか?
『球道くん』
(1977~81:小学館・少年ビックコミック(後のヤングサンデー)で連載)
水島漫画の投手の中でも最高峰の一人が中西球道。『大甲子園』準決勝における明訓vs.青田高校、延長18回再試合で記録した球速163kmの熱投はいまだに水島漫画史上の最高バウトです。『プロ野球編』の途中から千葉ロッテマリーンズに入団し、怪我に苦しみながらも活躍中。村田兆治のマサカリ投法をモデルとし、高校時代から千葉で過ごす球道は確かに千葉ロッテがピッタリなのですが、『ドリームトーナメント編』第1話に出てきた少年・悪道くんが、名前も姿も球道の小倉時代の旧友・悪道のまんまなので、このへんの関係性に注目です。そういえば『大甲子園』でも盛んに「岩田さんと野球がしたい」って言ってたなぁ…
さて最後に、扱いの難しい、しかし水島作品としては描かせない次の2作品もチェックしておきましょう。
『野球狂の詩』
(1972~76:講談社・少年マガジンで連載。その後ミスターマガジン、モーニングに移籍して『野球狂の詩 平成編』『新・野球狂の詩』として不定期掲載)
岩田鉄五郎と五里一平は既に登場していますが、6球団から8球団に増えた、というストーリーのため、東京メッツも大阪ガメッツも存在しない設定。そのため、水原勇気や火浦健などその他のキャラクターはどうなるのか。ただ、水原勇気は『大甲子園』にも登場していますし、2005年には『ドカベンVS.野球狂の詩』というこれまた夢の企画で対戦も果たしているので、主に新潟所属としての再登場を期待。
『あぶさん』
(1973~ 小学館・ビックコミックオリジナルで連載中)
現在も連載中、今月100巻が発売されるのが『あぶさん』こと景浦安武。2009年に現役は引退し、現在はホークスの二軍助監督を務めるあぶさん。息子で同じくホークス所属の景浦景虎ともども登場するのか。連載中の作品だし、ちょっと難しいんじゃないの……? とも思うのですが、実は過去『野球狂の詩』でこっそり登場経験もアリ。カメオ出演の実績がある以上、そしてこの作品が集大成であるならば出さないわけにはいかないでしょう。あぶさん一軍代理監督、景虎先発での、スターズvsホークス戦を期待しましょう!
単純に予想すれば、準決勝第1試合が東京スーパースターズvs.京都ウォーリアーズ、第2試合が四国アイアンドッグスvs.新潟ドルフィンズで、決勝戦が東京vs.新潟になると思うのですが、まあそんな予想は野暮ってもんでしょう。だって、作者自身が予想できない、想像のナナメ上を行ってくれるのが水島漫画なんですから。
そんな荒唐無稽な物語を楽しみつつ、しかし忘れてはならないのはこの物語の中に「野球の未来図」も描かれているということ。先ほど挙げた『光の小次郎』での予言の数々だけでなく、『ドカベン』の中で渡辺久信のノーヒット・ノーランを描いた後に現実世界で本人がノーヒッターになったり、山田太郎の5連続敬遠の後、あの有名な松井秀喜の5連続敬遠が起こったという事実……etc.
野球の伝道師であり予言者である水島新司先生、お誕生日おめでとうございます。
(オグマナオト)