わいせつ行為で懲戒免職になった公立中学校教師の数。
1999年はわずか3人。

2012年には、40倍の119人だ。
問題教師が10年間で急増したのではない。これまで見過ごされていたものが厳しく処分されるようになり、表に出てきたのだ。

〈子どもたちを育てようと教師になったはずの人たちが、なぜ子どもをつぶすようなことをするのか。学校はどうして隠蔽に走ってしまうのか。スクールセクハラはどうすれば防げるのか〉

池谷孝司『スクールセクハラ なぜ教師のわいせつ犯罪は繰り返されるのか』は、教師による生徒へのスクールセクハラのドキュメントだ。


〈教育関係者は「なぜ学校でそんなことが」と嘆くが、実は教師が指導の名の下に強い力を持つ学校だから起きる構図なのだ。信頼する教師が加害者になる、学校だからこそ起きる「権力犯罪」なのに、学校や教育委員会は「一部の不心得者の行為」「どこの組織にもそういう人間はいる」という認識にとどまり、さらには保身による隠蔽体質が次の事件を生む構造がある〉
〈もちろん、多くの教師が真面目に働いていることは言うまでもないが、授業に熱心で、部活動で実績を上げる教師が陰で悪事を働くこともしばしばある。権力を悪用する危険は常に多くの教師に存在する〉

ひとたび問題が起こると、教師本人の資質に注目が集まりやすい。そうではなく、「学校」という仕組みそのものに潜む問題を池谷は指摘している。

本書は5章仕立て。「M教師(問題教師)」「特別権力関係」「部活動」「二次被害」「届かない悲鳴」と章題がつけられていて、実際に起こったスクールセクハラ事件を、被害者・加害者に取材する形で描いている。


たとえば1章は、スクール「セクハラ」というよりもスクール「レイプ」と呼んだ方がふさわしいような事件だ。横山智子さん(仮名)は高校2年の秋、進路指導の面談で担任教師から「カラオケに行こう」と誘われ、断り切れずにホテルに連れ込まれ、乱暴された。智子さんはその後摂食障害になった。自分に自信が持てず、「ごめんなさい」が口癖になったのだという。

〈嫌な目に遭ったら困る。推薦入試を受けるなら内申書を握られてる。
カラオケならいいか……。担任が問題を起こすようなことはないだろう。悪い想像は考え過ぎだ〉
もともと「いい子」で、言われたことを断れなかった智子さんは、悩みながらも担任についていってしまう。
〈「まさか先生がそんなことをするなんて」(中略)「どうしてついていったのか。なぜ大人に相談できなかったのか、と自分を責めました」〉

担任教師の認識は、智子さんとは異なっていた。
〈基本的には男と女の仲だから、智子には好きだと思う感情があった〉
〈俺の方が誘った面もあるかもしれないけど、智子のほうが誘っていた面もあったよ〉
〈一人の女性として見ていたというのかな、ある面では生徒として見て、ある面では女性として見ていた〉
〈雰囲気に流された。
一人の女性として、拒否されるのなら、身を引く。智子も俺のことが好きなら、拒否しないだろうと思った〉
あくまで、大人と大人どうしの恋愛だと認識している。智子さんの拒否も「嫌よ嫌よも好きのうち」だと思っていたのだ。

〈好き嫌いの感情はなく、先生はあくまでも『先生』でした。自分が『女』として見られていたなんて、思いもしませんでした〉
〈智子は他の生徒より上の年齢に見えた。一人の女性として好きになっただけだ〉
「先生」と「生徒」でしかなかった智子さん。
「男」と「女」として考えたがった担任教師。
この致命的なズレは、この担任教師だけのものではない。他の章で紹介される教師たちも、「先生」ゆえに生徒から向けられる感情や信頼や服従を、「(先生ではない)自分自身」に向けられたと考えるようになってしまっていた。
教師には、生徒を指導するために特別な権力が与えられている。この権力に、多くの教師は無自覚だ。また、自覚していたとしても、それを悪用してしまうこともある。


今の日本では、生徒の心をつかみ、生徒に信頼を寄せられ、学校の中にかぎらずどんな場面でも生徒の力になる、「お父さん」「お母さん」のような教師が「良い先生」になる。
しかしその距離の近さが、その理想が、スクールセクハラを引き起こすきっかけにもなる。

小学校6年生の女児にホテルでわいせつ行為をしてしまった教師、長年にわたって行き過ぎた部活指導を行った教師……相談を受けた学校の対応の悪さや、男子生徒へのわいせつ行為、体罰とスクールセクハラの関係。
本書『スクールセクハラ』は、さまざまな視点から、スクールセクハラの実態を描いている。

〈子どもは理不尽だと思っても、大人にはなかなか「ノー」と言えない。ましてや権力を持った教師には。それが「スクールセクハラ」という人権を踏みにじる行為であってもだ〉

池谷孝司『スクールセクハラ なぜ教師のわいせつ犯罪は繰り返されるのか』(幻冬舎)

(青柳美帆子)