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「その瞬間! この宇宙は蟹缶になってしまう」発想の天才、赤瀬川原平を追悼3■貧乏性という超芸術

2014年11月18日 10時50分 ライター情報:近藤正高

赤瀬川原平『超芸術トマソン』(ちくま文庫、1987年)
赤瀬川ら「トマソン観測センター」の観測記録をまとめた一冊(単行本は白夜書房刊)。その表紙カバーは、アークヒルズ建設で消えた麻布谷町に存在した銭湯のエントツの写真。そこに写りこんだ、エントツの先端のわずかなスペースに立ちながらカメラを掲げる撮影者(カメラマンの飯村昭彦)の姿には、冷や冷やしてしまう。なお、この銭湯は現在のサントリーホール付近に位置したという。

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ここから蕎麦文化が日本だけのものではないことが理解できるだろう。

この地図のアナロジーは、じつは赤瀬川がそれ以前より芸術作品や文章を通じて提示してきた、極小のものから極大を見出す独特の物の考え方と通底するものがあった。今回は、そうした赤瀬川の「小は大を包みこむ」的な思想(本人はずばり「貧乏性」と表現していたりするのだが)と、それに裏づけられた路上観察などの活動を見てみたい。

■日用品の梱包から一気に宇宙の梱包へ――「宇宙の缶詰」
赤瀬川が1963年から翌年にかけて、同じく美術家の高松次郎と中西夏之と組んだ「ハイレッド・センター」については以前にもとりあげた。その1964年6月のグループ展で、赤瀬川は「宇宙の缶詰」なる作品を発表している。

赤瀬川はそれまで、「梱包芸術」と称して、扇風機やラジオなどといった日用品を梱包する一連の作品をつくってきた。だがそのうちに、このまま自動車だの東京タワーだの包む物を大きくしていったとしても、そこには単純なエスカレートしかないと思いいたる。そこで彼は一気に極点に向かい、宇宙を梱包することにしたのだ。それが「宇宙の缶詰」なのだが、その制作に使われたのは蟹の缶詰を空けたものだけ。これでどうすれば宇宙が梱包できるというのか?

具体的に説明すれば、まず、空にした蟹缶の外側のレッテルをきれいに剥がし、もういちど糊をつけて、その缶の内側に貼り直す。そして開けたフタを再度閉じてハンダ付けで密封してしまうのだ。

《その瞬間! この宇宙は蟹缶になってしまう。この私たちのいる宇宙が全部その缶詰の内側になるのです。そうでしょう。その缶に密封されて、外側(原文では傍点)に蟹のレッテルを貼られてしまったのだから。この宇宙の構造は閉じているのか開いているのか、宇宙の果てというのはどうなっているのか、人類にはまだ何もわかりませんが、それがわからないまま、わからないこともひっくるめて、その蟹缶がすっぽり包み込んでしまったのです》(赤瀬川原平『東京ミキサー計画』

何だか狐に包まれた、もとい、つままれたような気持ちにもなるが、理屈は通っている。同時代には、クリストというブルガリア出身のアーティストが赤瀬川と同様に日用品を梱包していたものの、やがてその対象を建築物など都市の景観、あるいは山や島のような自然へと広げていった。いかにもヨーロッパ人らしい壮大な展開だが、赤瀬川はそれを缶詰というごく小さなもので、概念としてはよりスケールの大きなことをやってのけてしまったわけだ。

ライター情報

近藤正高

ライター。1976年生まれ。エキレビ!では歴史・科学からドラマ・アイドルまで手広く執筆。著書に『タモリと戦後ニッポン』(講談社現代新書)など。愛知県在住。

URL:Culture Vulture

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