誰だ、こんな失礼な企画考えたの!

雑誌『野球太郎』最新号の特集テーマは「オレに訊くな!」。
野球界で実績を残している現役選手、さらに球界OBのレジェンドたちに、本来であればとても聞きづらい(というか聞くべきではない)質問をぶつけていく。
タブーも厭わない。

世間では球界のご意見番・張本勲による「カズ引退勧告」に対して「失礼だ!」と批判を集めているが、失礼度合いではなかなかいい勝負である。

くどくど説明するよりも、インタビューに応じた顔ぶれと、その質問内容を見た方が早いだろう。

◎元投手・中田翔に訊く「二刀流での成功の仕方を教えて下さい」
◎球界一不運な男・西口文也に訊く「ノーヒットノーランの仕方を教えて下さい」
◎高校時代はスラッガー・今宮健太に訊く「ホームランの諦め方を教えて下さい」
◎1882打席連続無本塁打・岡田幸文に訊く「ホームランの打ち方を教えて下さい」
◎今年が勝負の正捕手・炭谷銀仁朗に訊く「有望な若手との競い方を教えて下さい」
◎ミスターコントロール・小宮山悟に訊く「剛速球とは何なのかを教えて下さい」
◎17年間2番手捕手・小田幸平に訊く「レギュラーの獲り方を教えて下さい」
◎3人の息子がJリーガー・高木豊に訊く「息子をプロ野球選手にする方法を教えて下さい」
◎NPB最多3085安打・張本勲に訊く「セーフティーバントの決め方を教えて下さい」

野球ファンであれば、「それ、触れちゃダメなやつ!」と、思わずツッコミたくなるラインナップだ。

実際、インタビューの中では
「オレに二刀流、二刀流ってホンマに失礼ちゃうの」(中田翔)
「ほんまにオレに訊くな、っすわ!」(炭谷銀仁朗)
「ひとつ間違えばケンカになるね」(小田幸平)
と、もちろん、インタビュー上でのやんわりとした受け答えながらも、プロとしてのプライドを垣間見せる瞬間がたびたび描かれていて、その緊張感がたまらない。

ただ、そこは偏狭的な情熱で野球を追い続ける雑誌『野球太郎』。
根底に選手と野球へのリスペクトがあるからこそ、ただの失礼な質問では終わるはずもない。
そして受けて立つ野球人たちも、質問の真意を理解すると、専門的な見地も交えながら熱のこもった野球論で応対する。

たとえば、日本ハムの主砲にして、本当は投手としてプロで活躍したかった中田翔。もし自分が投手なら、打者・大谷翔平に対してどんな投球をするのか? この問いに対して、他球団の投手たちの投球傾向(死球が少ないこと)に言及してこう宣言する。
「俺がピッチャーならやっぱり、当ててもいいくらいの体すれすれでドンドンいくよね」

ノーヒットノーランに必要なものは? という問いに「運でしょ、運」と、諦めにも似た心情を吐露したのは西口文也。そんな彼も、あと18勝に迫った200勝とノーヒットノーラン、同じ偉業ならどちらを達成したいか? というこれまた無粋な問いに対して、「どうせなら、ノーヒットノーランを達成しておきたいかな? ワンチャンスがある記録だし『4回目だから、今回は頑張ってみようかな』と思うかもしれないですね」と、正直な気持ちを告白する。


「剛速球」というテーマに対して、チームメイトだった伊良部秀輝との思い出を語ったのは小宮山悟。《小宮山は伊良部の剛速球に感嘆し、伊良部は小宮山の制球力に憧れていた》というくだりは、ロッテファン、パ・リーグファンならずとも感慨深い。
そんな小宮山はインタビュー中、何度も「野球は単純に速い球を競うスポーツではない」と繰り返しつつ、最後にはこんなメッセージも残している。
「剛速球投手の存在がプロ野球に必要ないかと聞かれれば、決してそうではない。なぜなら、お客さんが喜んでくれますからね。お客さんに『すげえな、俺にはできない』と思わせるのはプロ野球選手の最初の仕事」

質問の仕方や聞き方を何度も変え、機を見計らいながらこれらの言葉を引き出していくライター陣の奮闘ぶりも本書の見どころのひとつ。

そこにあるのは、ライターとプロ野球選手、プロの矜持のぶつかり合いだ。

それぞれに投げかけられる一見失礼な質問は、各選手たちが悩み、苦労したテーマだからこそ、野球の本質的な難しさや奥深さをあぶり出すことに成功している。

プロ野球が開幕してはや半月。今年のプロ野球をより濃密に、味わい深く堪能できる秘訣がつまったインタビュー集である。
(オグマナオト)