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ガイドブックではわからないニューヨークの内省。エッセイマンガ『ニューヨークで考え中』

2015年5月11日 10時50分 ライター情報:香山哲

『ニューヨークで考え中』近藤聡乃/亜紀書房

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「どこにいても人はそう変わらないものです」。漫画『ニューヨークで考え中』の表紙をめくると、やけに落ち着いた言葉が書かれていた。

2008年からニューヨークに住んでいる著者の近藤聡乃さんは、漫画やアニメーション、ドローイング、エッセイなど様々な制作をおこなっている作家だ。『ニューヨークで考え中』は、そういった生活の場面場面が1話2ページの漫画になっていて、全70話収録された本だ。

多くの「海外生活体験談」みたいな作品と共通して、食文化の違いや行事・風習についてなどが描かれている。日本人がよくニューヨークと聞いて思い浮かべる「犯罪」「大寒波」といったことについても描かれている。英語の難しさなどについても描かれている。だけども全体的なトーンが、「そういう本」とすこし違う。

まず、絵や字が違う。スクリーントーン無し、デジタルを思わせる加工も見当たらない、手描きの画面。どちらかというと若い人が書きそうにない、きれいな手書きの字。建物や看板、家具や植物や小物もすっきり丁寧に描かれて雰囲気を伝えている。こういう画面の特徴が、大量に刷られた漫画本でありながら、どことなく個人的な便りを見ている気持ちにさせてくれる。商業的に作られた物を見せられている感じがあまりしない。

そして、「あの店のあれが良い」とか「この通りのこの景色が最高」だとか、そういう観光ガイド的な情報は、あると言えばあるんだけど、結構少ない。では、そのぶん何が配合されているかと言うと「内省」だと思った。

たとえば、「クリスマスのパーティーに呼ばれたけど、一人になりたくて仮病を使った」なんていうエピソード。ニューヨークに住んでから見るようになった夢の内容。何がきっかけかは分からないけれど、一人で考えた色々なこと。そういうことが多い。著者の職業柄、一人で制作作業をしている時間が多いせいかもしれない。様々な体験や異文化との出会いを「噛んで飲み込んで消化している人間の考えごと」が急ぎ足ではなく、ゆっくりした速度で描かれている。

とはいえやっぱり考え事ばかりではなく、生活のあらゆる場面で起こる色んなことがベースになっていて、そのバランスが良い。ラーメンが食べたくなったり、豚バラ肉を求めてさまよったり、周囲のラフな服装に慣れていったり、ご近所さんとの距離感に戸惑ったり、ボリューム満点の出来事の中でぽつぽつと立ち止まる、そのテンポがとても良かった。

ライター情報

香山哲

漫画やゲームを制作するチーム「ドグマ出版」主催。著作に『ランチパックの本』や『香山哲のファウスト1』(文化庁メディア芸術祭推薦作品)など。

URL:Twitter:@kayamatetsu

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