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『「いき」の構造』の哲学者・九鬼周造は日本語ラップの出発点だったYO!

2015年7月27日 10時20分

ライター情報:千野帽子

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『「いき」の構造』という論文がある(講談社学術文庫岩波文庫角川ソフィア文庫同Kindle青空文庫))。
九鬼周造『「いき」の構造』(藤田正勝註、講談社学術文庫)。800円+税。

〈いき〉(粋、クール)は
・〈媚態〉
・〈意気地〉
・〈諦め〉
の3要素から構成されている、と主張した論文だ。

〈諦め〉が入っているのがいい。カッコイイ。
手放す、委ねる、固執しない、押しつけない、それが〈いき〉なのだ。
書いたのは哲学者・九鬼周造(1888-1941)。とてもかっこいい人だ。

「いき」を知る江戸っ子


九鬼周造は江戸っ子だ。父は貴族。
周造がおなかにいるとき、母は美術史家・思想家の岡倉天心(1863-1913)と恋愛関係となり、出産後に離縁されている。
幼い周造は、天心が自分のほんとうの父なのではないかと思っていたという。

ドイツとフランスに学び、ベルクソンと交流、ハイデガーに師事、若きサルトルを家庭教師に雇ってフランス語を学んだともいわれる。
またドイツ語Existenz(仏語・英語のexistence)を「実存」と訳すのは、九鬼が定着させたことらしい。

帰国後、京都大学で教鞭を執る。西田幾多郎とともに「京都学派」のスター的存在となった。
主著『偶然性の問題』をはじめ、「偶然」とか「めぐり逢い」を生涯重視しつづけたのも、とても垢抜けた姿勢だった。
九鬼周造『偶然性の問題』(岩波文庫)。1,140円+税。

母が花柳界の出身だったことと関係あるのかどうかはわからないが、九鬼周造は深川や祇園での遊びや俗曲によく通じていた。
長身でお洒落、お金持ちの遊び人、そして亡き母を心のどこかで追いかけている、寂しさを帯びた人。
まるでアニメのキャラクターのようなカッコよさだ。

都々逸風に歓楽街を吟じる


『アメトーーク!』に「偶然を愛する芸人」という回があったが、九鬼は偶然を愛する哲学者だ。
「偶然」を愛する九鬼は、「韻」について、何度も論文を書いた。

言われてみれば韻とは、意味がまったく無関係な複数の語が、音が「偶然」似ているだけで理由で詩作品のなかで並んでしまうという現象だ。
日本語の詩歌には脚韻があるものがほとんどない。一般に日本語は脚韻に不向きだと言われてきた。

九鬼は論文で、そういった説を各個撃破し、日本語でもじゅうぶんに脚韻のある詩を書けると主張した。
日本語の詩歌の押韻にかんする論文は複数のヴァージョンがあり、『九鬼周造全集』の第4巻第5巻に収録されている。
『九鬼周造全集』第4巻(岩波書店)。5,600円+税。

九鬼の論文は理論を示すだけでなく、日本語脚韻詩の実作を附録としてたっぷり載せている。九鬼は実験的な詩人でもあったのだ。

ライター情報

千野帽子

文筆家。著書『読まず嫌い。』(角川書店)『文藝ガーリッシュ』(河出書房新社)『俳句いきなり入門』(NHK出版新書)など。公開句会「東京マッハ」司会。

URL:Twitter:@chinoboshka

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