今注目のアプリ、書籍をレビュー

0

町田康版「こぶとり爺さん」がいろいろ反則すぎて腹が痛くなるほど笑ったああああっ

2015年10月11日 10時50分 ライター情報:千野帽子
池澤夏樹=個人編集《日本文学全集》(河出書房新社)の第1期第9回配本は、第08巻『日本霊異記 今昔物語 宇治拾遺物語 発心集』
説話集の、いわばベストセレクションだ。
本書には、「短い話」と、「めちゃくちゃ短い話」が、合計105篇収録されている。
池澤夏樹=個人編集《日本文学全集》08『日本霊異記 今昔物語 宇治拾遺物語 発心集』(河出書房新社)。解題=小峰和明、月報=高樹のぶ子+朝吹真理子、帯装画=しりあがり寿。2,900円+税。

この巻の収録作はこちら。
・景戒『日本霊異記』(822?)(伊藤比呂美抄訳)
『今昔物語』(『今昔物語集』[12世紀前半]の福永武彦による抄訳の、さらに抄録)
『宇治拾遺物語』(13世紀前半)(町田康抄訳)
・鴨長明『発心集』(13世紀初頭?)(伊藤比呂美抄訳)

この巻は、本全集の既刊のなかで、もっともインパクトのある巻だと思う。町田訳『宇治拾遺物語』(後述)を生み出したのは、本全集のグッジョブとして語り継がれるだろう。

煩悩退散なのか、下ネタ万歳なのか


奈良・薬師寺の僧・景戒(きょうかい、あるいはけいかい)が漢文で編んだ『日本霊異記』(中田祝夫による全訳→)と、『方丈記』(本全集7巻に高橋源一郎訳が収録予定)の鴨長明(1155-1216)が記録してコメントをつけた『発心集』(浅見和彦+伊藤玉美による全訳→)は、説話のなかでも仏教説話と呼ばれている。
伊藤比呂美が後述の『日本ノ霊異〔フシギ〕ナ話』を書くときに参考にしたのは、中田祝夫訳ではなく多田一臣訳・校注の景戒『日本霊異記』(ちくま学芸文庫、全3巻)。現在新刊では入手できない。

ありがたい仏の教えを説くお話だ。といっても日本なので、インド・中国・朝鮮半島での改変を経た大乗仏教である。
宗教説話というものは、そもそも清浄なお話ではない。人間の欲望や迷いを正面から書いちゃう。すばり下ネタだったり残虐非道だったりする。

仏教は出発時点では、そういう煩悩から自由になるためのものだった。
けど、これらの説話を読んでると、景戒も長明も、ありがたい教えを口実にして、むしろ性欲・物欲・慢心にまみれた人間のトホホ感自体を「笑えるもの」として書くのが、楽しくなってきてるんじゃないかと思えてくる。

『日本霊異記』は全3巻116話のうち、上巻の序と22話を収録している。上巻第1話は雄略天皇の片腕・小子部栖軽(ちいさこべのすがる)が雷神を捕獲するという超自然的な逸話だ。つまり仏教公伝よりずっと前に設定された伝奇で、この話だけは仏教要素ゼロ。

冒頭すぐに、
〈天皇、后と大安殿〔おほやすどの〕に寝て婚合〔くながひ〕したまへる時〉(原文は多田一臣校注のちくま学芸文庫版から引いた)
である。これを身も蓋もなく
〈帝と后は宮の正殿でセックスをしていた〉
とした伊藤訳の、あっけらかんとした感じが気持ちいい。

ライター情報

千野帽子

文筆家。著書『読まず嫌い。』(角川書店)『文藝ガーリッシュ』(河出書房新社)『俳句いきなり入門』(NHK出版新書)など。公開句会「東京マッハ」司会。

URL:Twitter:@chinoboshka

コメントするニャ!
※絵文字使えないニャ!

注目の商品