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世之介が肉体的に交渉した女は3742人、男は725人。新訳『好色一代男 』

2015年11月27日 09時50分 ライター情報:千野帽子
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池澤夏樹=個人編集《日本文学全集》(河出書房新社)の第1期最終回(第12回)配本は、第03巻『好色一代男 雨月物語 通言総籬〔つうげんそうまがき〕 春色梅児誉美〔しゅんしょくうめごよみ〕』
池澤夏樹=個人編集《日本文学全集》11『好色一代男 雨月物語 通言総籬 春色梅児誉美』(河出書房新社)。解題=佐藤至子、月報=田中優子+宮部みゆき、帯装画=中村佑介。3,100円+税。

 この巻の収録作はこちら。
井原西鶴の浮世草子『好色一代男』(1682。島田雅彦訳)
上田秋成の読本『雨月物語』(1776。円城塔訳)
山東京伝の洒落本『通言総籬』(1787。いとうせいこう訳)
為永春水の人情本『春色梅児誉美』(1833。島本理生訳)

江戸時代の「小説」(という総称は当時はなかったが)の4つのモードから、各1篇ずつ選ばれている。
ざっくり言って、最初の2篇は関西の文学、あとの2篇は江戸の文学だということができる。

遊郭という背景、あるいは好色という美意識


『好色一代男』は、金持ちの家に生まれた主人公・世之介の、性的に放縦な人生を物語る。
世之介の最初の性的体験は7歳。以下、1年につき1挿話(おおむね2-3頁と短い)で、60歳までの54年間を記述している。
ひとつひとつの挿話は独立しているので、1話完結のシリーズアニメを見ているような感じがする。

54という数字は『源氏物語』(本全集第04巻第05巻第06巻に角田光代訳が収録予定)の全54帖にちなむという。
紫式部『源氏物語』第1巻(玉上琢弥訳、角川ソフィア文庫)。800円+税。

じっさい世之介は、『源氏物語』の主人公・光源氏や、それに先立つ『伊勢物語』(本全集の次回配本・第03巻に川上弘美訳が収録予定)の主人公(歌人・在原業平をモデルにしたとされる)と並んで、日本文学の世界ではスペイン文学のドン・フアンに相当するモテ男あるいは漁色家の代名詞となっている。
阿部俊子訳『伊勢物語』上巻(講談社学術文庫)。920円+税。

江戸時代の文学に出てくる色恋沙汰のうちかなりの部分が、遊郭にいるプロの女性との関係だという。世之介の性的遍歴も、素人よりはどうしてもそっちのほうに傾きがちだ。

「井原西鶴先生の次回作にご期待ください」


また江戸時代には衆道(男色、とりわけ少年愛)もよく文学に取り上げられた。
世之介が肉体的に交渉した女は3742人、男は725人と書かれている。合計して54で割ると年間83人弱。週に1-2人の新しい相手とかかわっていることになる。

世之介は60歳で死ぬのではなく、最後は、船に強壮剤や催淫剤や性具をありったけ積み込んで、仲間といっしょに女護(にょご)の島を目指して消息を絶った。目的は〈女のつかみ取り〉である。
『好色一代男』のこの終わりかたは、なんというか、
「俺たちの戦いはこれからだ──!」
「井原西鶴先生の次回作にご期待ください」
「井原西鶴先生の作品が読めるのは大坂・池田屋だけ!」
みたいな感じだ。

ライター情報

千野帽子

文筆家。著書『読まず嫌い。』(角川書店)『文藝ガーリッシュ』(河出書房新社)『俳句いきなり入門』(NHK出版新書)など。公開句会「東京マッハ」司会。

URL:Twitter:@chinoboshka

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