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御神体・那智の滝にロープをかけた男「外道クライマー」

2016年4月18日 09時50分 ライター情報:南光裕
2012年7月。
世界遺産・那智の滝で登山をした3人組が逮捕された。
『外道クライマー』は、グループ最年少の宮城公博が、事件の一部始終とその後を綴った本だ。
『外道クライマー』宮城公博/集英社インターナショナル

日本最大の瀑布


那智の滝の落差は133メートル。その80メートル地点にしがみついている男がいた。
世界トップレベルの登山家、大西良治と佐藤裕介。
2人に話を持ちかけた作者、宮城公博。

すぐ横からは水の爆音。それに混じって拡声器ごしの声が響く。
「何やってんだ!」「逮捕しろ!」
警官や神社関係者が集まっていた。ひときわ迫力がある白い衣の老人は、熊野那智大社の宮司だ。
先行していた佐藤が悔しそうに手を振った。
「駄目だ、登れないっ!」
最強のクライマーをもってしても、全く手をかける場所がない。反り返った完璧な一枚岩だ。

下調べの段階では夜に侵入するはずだった。
だが、闇に浮かぶ滝のあまりの神々しさが、3人を本気にさせた。
いつものようにルートを決めて、堂々と昼間にアタックしよう。それが御神体に対する、我々なりの礼儀だ。

夜間に何度も挑戦していたら、登頂できたかもしれない。
結果的に那智の滝は、その威光で人に踏みつけられることを拒んだ。

「登りたいと思わないほうがおかしい」


3人は、クライマー、登山家よりも、沢登り愛好家「沢ヤ」と名乗るのを好んだ。
薮、虫、濁流にまみれて未踏ルートの開拓を生きがいにする、登山家の中でも異端の「社会不適合者」。
ルートが決まっている登山は「スポーツであっても自分たちの求める探検ではない」と否定する。

そんな連中の前に、日本最大の滝が未踏のまま残されている。
「登りたいと思わないほうがおかしい」
聖域を汚したいとか、そんな考えは1ミリもない。
ホンモノの登山家があの滝を見たら、
「登りたい」
以外の言葉は出ないはずだ。

頭を丸めて謝罪に来た3人に、老宮司は凄まじい怒りをぶつけた後、いかに自分が滝を大切にしているか、いかに滝が貴重かをやさしく説いた。
これがこたえた。
「沢ヤ」なるわけのわからない連中に、正面から向き合ってくれたのだ。
登山技術で完敗。人間的にも完敗。
作者は勤めていた福祉施設をクビになった。

前科持ちになり、信頼を失い、これからどう生きればいいのか。

「俺は沢ヤだ。どうしようもなく沢ヤだ。どれだけ誘惑があろうとも、たとえ目の前で美人女優がM字開脚をして誘ってきたとしても、沢ヤなら沢に行くのだ。それが沢ヤだ。 まぁ、本当にそんな誘われ方したら、一発ヤった後に沢だ。

ライター情報

南光裕

おもしろいものをみつけて、わかりやすく書きます。
いまだに電子書籍よりハードカバー。
ゲームはスマホよりも専用機。

URL:Twitter:@kohadamaguro

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