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「伯爵夫人」もエロいか知らんが、侯爵夫人もなかなかにエロい

2016年7月31日 10時00分 ライター情報:千野帽子
〈外見さえ整えて、ひとしきり作法を守っているかぎり、上流階級の淑女に許された自由を楽しむことなど、実は造作もない〉
オシャレです。

ホセ・ドノソ『ロリア侯爵夫人の失踪』(寺尾隆吉訳、水声社《フィクションのエル・ドラード》)は、エレガントで背徳的、そしてアーバンな官能小説。

三島由紀夫賞受賞作『伯爵夫人』がいろいろエロいという噂が聞こえてくるが、侯爵夫人もなかなかにエロい。

「結婚行進曲」のアイロニー


1920年代のスペイン、首都マドリード。
ニカラグアの首都マナグアに生まれ、外交官の5人娘の長女としてマドリードに住んでいた美少女ブランカ・アリアスは、修道女学校を卒業して間もなく、若くて裕福なパキート(ロリア侯爵)と、ワーグナーのオペラのボックス席でのむつみあい(!)を経て結婚する。
『ローエングリン』に有名な「結婚行進曲」が含まれていることを考えると、じつに気の利いた演出だ。

そののち、わずか5か月で、夫はジフテリアで死んでしまう。
ヒロインは19歳にして優雅この上ない未亡人生活を手に入れた。
ここから、ブランカの奔放な生活がはじまる。

ノンストップの淫奔な生活


〈未亡人となったブランカは、何も知らない、何もわからないふりを決め込み、高価な美しいお人形のように、このかわいい頭につまらないことを吹き込まないで、そんな態度を貫いた〉

以下、ピチピチの若者からヨボヨボの老人、さらに同性の相手まで、優雅な睦言からヴァイオレントなコイトゥスまで、ブランカのセクシャルな遍歴が、ドタバタ喜劇調の軽さで次から次へと語られる。

新大陸からやってきた型破りな娘が、歴史と伝統の煮こごりみたいなヨーロッパの王国で、周囲の異性や同性にカルチャーショックを与える──。
といえばこのパターンは、ヘンリー・ジェイムズの『ある婦人の肖像』『デイジー・ミラー』『アメリカ人』などの「国際状況小説」を思わせる。

『ロリア侯爵夫人の失踪』は、いわばエロ国際状況小説なのだ。

第1次世界大戦と世界恐慌に挟まれた黄金の1920年代と言えば、フランスの「狂乱時代」、米国の「ジャズエイジ」。スペインの首都マドリードもまた、そのような華やかさを帯びていたのだろうか。

ストーリーは、ブランカの分身のような犬(ワイマラナーの牝)ルナの登場によって俄然きな臭くなっていく。
ワイマラナーはこんな犬種。

この犬は、ただ雰囲気作りのために投入されたのではなく、ストーリーを破局に追い込むために作者が満を持して登板させた、いわばストッパーであり、もうひとりの主役なのだ。

ライター情報

千野帽子

文筆家。著書『読まず嫌い。』(角川書店)『文藝ガーリッシュ』(河出書房新社)『俳句いきなり入門』(NHK出版新書)など。公開句会「東京マッハ」司会。

URL:Twitter:@chinoboshka

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