ずーっと気になっていた調理器具があった。家庭用のコンベクションオーブン。
「コンベクション」とは「(熱・大気の)対流」を意味する英語で、文字通り内部のヒーターから発せられた熱をファンで強制的に対流させるオーブンだ。

家電量販店に行くとほしくて仕方がなくなる。しかしオーブントースター、電子レンジなどは持っている。もし衝動買いして、どうにも使えなかったら、金銭だけではなく、手間やスペースの無駄遣いにもなってしまう。うう……。

と、悩んでいたが、やっぱりプロダクトは使い込んでみないとわからない。
というわけで実際に試しに使ってみることに。そして使ってみて仰天した。まず結論から言ってしまおう! メチャクチャ使える!(詳細&理由は後述)

今回、試してみたのは、イタリアの家電メーカー、デロンギのミニコンベクションオーブン。デロンギ製品はそのデザイン性の高さもあり、世界中に熱烈なファンがいることでも知られている。

ところが着荷を開梱して勝手に拍子抜けしてしまった。たいていの家電製品は、店頭ではどうしても小さく見えがちだ。
開梱しての第一印象も「あ、思いのほかデカイ……」となりやすい。ところが、このオーブンについてはサイズ感が店頭で抱いた印象通り。実際、フツーのオーブントースターと比較しても、外寸は同じくらい。中のトレイの奥行きは約1.5倍あるものの、店頭で感じた「このサイズだと小さいかな……」という印象と同じくらいのサイズ感だった。

コンベクションオーブンの特徴は、オーブン内に対流を起こすことで内部を均一な温度に保てること。普通のオーブンでは火の当たりが強い部分から食材に熱が通り、全体が出来上がる頃には仕上がりにムラが出てしまいやすい。
その弱点を解消したオーブンで、とりわけ業務用の大型のものほど、熱のまわりが均一になりやすいとされる。果たして小型のものが、どれくらい使えるのだろうか。

本体前面には、ツマミがふたつ。上に保温(80度)から「グリル」まで120~230度の間で調整できる温度ツマミ、下にはオン/オフスイッチ兼用のタイマーツマミ。基本操作はこの2つのツマミで行う。付属品には、食パンが4枚乗るサイズのワイヤーラックに、テフロン加工された調理用のトレイとオイルプレート。
そしてピザストーン。同梱されたレシピ集には、スイーツからラザニア、ピザ、焼き魚、焼きメンチカツなど、和洋様々なメニューが載録されている。

今回作った品は以下のとおり。
・モーニングプレート(同梱レシピからのアレンジ)
・骨つき鶏もも肉のロースト、焼き野菜添え(試作)
・豚しょうが焼きプレート(試作)
そのほか、ピーマンの丸ごと焼き、牛ロースの塩釜、豚肉のサムギョプサル風など、あれこれ作ってみた。そして気づいた特徴がいくつかある。

【プレヒートが早い】
デロンギで定評のある予熱。
これがまたサイズがコンパクトだからか、やたらと早い。温度を測ったところ、2分で95℃、3分で170℃を突破した。中型や大型なら軽く10分以上かかるところ、3分で「使える温度」に到達する。肉や野菜を切ってこのスピードなら最初から食材を入れても、表面が乾燥する前にきっちりあたたまるので、加熱のバリエーションが広がる。忙しい朝には、マフィンなども含めた朝食プレートが丸ごと焼けてしまうというお手軽さ。

【トレイ(天板)がテフロン加工である】
「小見出しに打つほどか」と思われるかもしれないが、隠れた重要なポイント。
実は現在市販されているオーブンでも天板がテフロン加工のものは少ない。しかしテフロン素材の天板は焦げつきの心配がなく、食材をそのまま乗せられる。オーブンシートなど必要ない。焼きトマトから、鶏のローストに、豚のしょうが焼きまで、なんでもござれ。たぶんメーカーは推奨していないだろうが、トレイはそのまま皿代わりにすることも可能。しかもトレイ、オイルプレートとも、とても洗いやすい形状になっている。オーブン料理で一番シンドい最後の「洗い」が、メチャクチャラクなのだ。

【1食(2人のおかず)まるごと焼ける】
サイズが絶妙。1人前なら天板に野菜、肉、マフィンなどを乗せて、同時に焼ける。同梱されたレシピに載っていた、ココット皿で作るベーコンエッグなど、卵の黄身の半熟具合はフライパンより遥かにコントロールしやすい。おかずのみなら、2人分を同時に調理できるし、食パンなら同時に4枚焼ける。家族の形に応じた、使い方の懐の深さが頼もしい。

【塊肉が得意】
大ぶりの鶏もも肉を、3本ほど加熱の加減を変えながら焼いたところ、対流のおかげかヒーター最高温度の230℃で焼いても「焦げ」による失敗が少ない。一晩漬け込んだ鶏もも肉を高温→保温→高温でローストしてかぶりついたら、口内には鶏汁がブシャー!! 皮はパリンパリンなのに、ものすごい肉汁量。穴の空いたオイルトレイ(こちらもテフロン!)を重ねれば、素材から出た余分な油が天板に落ちる。レシピは後ほどご紹介。

その他、雑感としては操作系はアナログ式のダイヤルが2つだけというのも使いやすい。前面のガラス扉から中を見て、仕上がっていそうなら引き出せばいいし、足りなさそうならもうひとひねり。デジタル仕様のオーブンではむずかしい、大ざっぱな指定が感覚的にできる。どこかiPhoneっぽくもある。

【グリルモード】の存在も心強い。温度の上限が設定されたオーブンのなかには、いったんサーモスタットが落ちると、なかなか通電しないものがある。この機種にもサーモスタットは搭載されているが、指定温度からグリルモードにツマミを回せば、だいたい通電ランプが点灯する。「火は通ってるけど、焼き目だけもう少しつけたい」というときに、いつまでたってもヒーターが赤くならないあのイライラ感から解放される。

結論。この機種は、ふだん使いの加熱調理器具としては、オーブントースターとオーブンのいいとこ取りができるアイテムだ。忙しい朝や、疲れた夜の自炊が劇的にラクになる。大きなサイズの調理器具に対するときのように肩ひじ張った気構えもいらない。単機能の簡易調理器具につきまといがちな物足りなさもない。

プログラム任せでなく、仕上がりは自分で見極める。機能任せに使うだけで料理がおいしくなり、使い続ければ、確実に料理がうまくなる。ああ、返却したくない……。

さて最後にコンベクションオーブンを使い倒したい方向きに、用意しておくと良さそうな三種の神器を紹介しておこう。
耐熱容器
トレイやプレート上でベーコンエッグや、焼き野菜など複数のメニューを作るときに役立つ。100円ショップなどでも手に入る。

オイルスプレー
シリコンのハケが高温に耐えられるか心配だったので、鶏の皮目や焼き野菜などに使用。皮目はパリッと仕上がり、野菜もみずみずしい仕上がりに。

ミトン
この機種にはトレイ用のハンドルが同梱されていないので、ミトンはぜひご用意されたし。
というわけで……

■本日のレシピ!
【ミニコンベクションオーブン特化レシピ】
・モーニングプレート(付録のレシピをアレンジ)
材料(1人分)……小松菜2~3束(小束)/トマト1個/卵1個/ベーコン1枚/マフィン1個/塩・オリーブオイル適量
1.マフィンは半分に割る。トマトは横半分、ベーコンは1枚を半分の長さに、小松菜は流水で洗って5cmほどの長さに、ベーコンは1枚を半分の長さに切る。
2.耐熱容器(小)にベーコンを十字に敷き、卵を割り入れる。耐熱容器(大)に小松菜を敷き、トマトを乗せ、塩とオリーブオイルをひと回し。その上からも塩とオリーブオイルを。
3.マフィンと2.をトレイに乗せ、230℃で約8分焼く。
※小松菜は軽く焦げると、焙煎したお茶のような香りに。

・骨つき鶏もも肉のロースト、焼き野菜添え
材料(1人分)……骨つき鶏もも肉1本/マッシュルームなどのきのこ、ブロッコリー、ペコロス、ピーマン、パプリカ、キャベツなど、火の通りやすい野菜適宜/塩・こしょう・オリーブ油
※もも肉用調味料A(ガーリックソルト味) 塩小さじ1/2/こしょう適宜/ガーリックパウダー小さじ1/2/ローズマリー(ドライ)小さじ1
もも肉用調味料B(照り焼き味) しょう油、酒、オリーブ油各大さじ1/はちみつ(砂糖でも可)大さじ1/2/オイスターソース小さじ1/おろしにんにく大さじ1/2/こしょう適宜
1.骨つき鶏もも肉は、身の側を上にして骨に沿って包丁を入れ、厚さが均等になるよう開いておく。焼き野菜の素材は3cm角程度に切りそろえる。
2.Aの味つけなら調味料をすべてすり込む。Bなら調味料を合わせてビニール袋で数時間から、一晩寝かせる。
3.下味のついた鶏肉を皮を上にしてトレイに乗せる。皮目にオリーブオイルを塗り、予熱せずにトレイを入れ、230℃で10分加熱。その後、保温モードにしてもう10分あたためる。
4.トレイを引き出し、肉のまわりに野菜を置き、軽くオリーブオイルと塩を振る。もう一度230℃で10分加熱する。
※野菜を薄く切ってトレイに並べ、上に乗せたオイルプレートで鶏肉を焼いてもいい。いったん冷めた肉でも保温モードで温めると、できたてのようなやわらかさで復活する。

・豚しょうが焼きプレート
材料(1人分)……豚肉(小間・切り落とし等)120g/キャベツ、アスパラガス、ピーマンなど火の通りやすい野菜適宜/塩・ごま油適量
※生姜焼き用調味料 しょう油大さじ1/酒大さじ1/砂糖小さじ1/サラダ油小さじ1/しょうが・にんにくのすりおろし各小さじ1
1.豚肉は一口大にカットして、調味料すべてをよくもみ込む。野菜は流水で洗い、一口大にカットしたものを耐熱容器に並べ、塩ひとつまみとゴマ油をまわしかける。
2.230度に予熱したオーブンのトレイに豚肉は直接、野菜は耐熱容器ごと入れる。5分経過したところで、豚肉の上下を返し、均等に熱が入るようにして、もう5分加熱する。
※野菜を薄く切ってトレイに並べ、上に乗せたオイルプレートで豚肉を焼いてもいい。

モーニングプレートは焼いたトレイのメニューが、そのまま朝のワンプレートになり得る。鶏もも肉は、「保温」モードで肉を休ませることで、身はこの上なくジューシーになり、最後に230℃まで熱を上げることで皮目がパリッと仕上がる。そして豚のしょうが焼きは、焦げつくことなく香ばしい焼き目と未体験のやわらかさを両立できる。

そしてこのコンベクションオーブンを使うと、我ながらビックリするほど洗い物にまつわる負担が少なくなる。デロンギは「世界最小コンベクションオーブン」を謳い文句にしているが、それだけではない。ひとつひとつの機能はシンプルながらも質実剛健。この道具を使いこなせるか。このミニコンベクションオーブンはデロンギからの挑戦状である。(松浦達也)