「ふだん運動してない人が、『やせたいから』と急に運動しても長続きしません。最初は『正しい座り方で、正しく呼吸する』を心がけるぐらいで十分。姿勢良く座るだけでも案外、体に負荷がかかります」

こう語るのは『ゆれるだけでやせる! 仙骨バランスクッションダイエット<バランスクッション付き>』(講談社)の監修を務めた、伊藤華英さん。北京・ロンドンオリンピックをはじめ、国内外の大会で活躍した日本を代表する競泳選手であり、JAPICA公認ピラティスコーチでもある。競泳現役時代、胸椎ヘルニアや膝の故障といったケガのリハビリのためにピラティスを導入。現在は大学員に通うかたわら、ピラティスの指導も行う。今回のバランスクッションは、ピラティスで使う「バランスボール」がヒントになっているという。

「バランスボールは、乗って跳ねているだけで自然と姿勢が良くなっていく、とても便利なアイテムです。ただ、大きいし、目立つのでオフィスはもちろん、自宅に持ち込むのも勇気がいる。バランスボールほどかさばらず、同じような効果が得られるには……ということでできあがったのが、今回のバランスクッションです」

この本は手裏剣のような形をしたバランスクッション付き。空気を吹き込み、ふくらませて使う。ただし、パンパンに空気を入れるのではなく、全体の3/4程度の量が目安。クッション内を空気が動き、バランスボールと同じ動きを再現できるという。なぜ、ゆれるだけでやせられるのか。やせる理由と効果を高めるコツを聞いてみた。

<<動かさないところは、脂肪がつきます>>
−−「ゆれるだけでやせる!」ということですが、ホントにゆれるだけでやせられるものですか?
伊藤 これまで運動していなかった人であれば、「座るだけ」でも構いません。いすにクッションを置いて座ると、自然と仙骨(骨盤の中央に位置する骨)が立ち、背筋が伸びます。お尻の穴をギュッと締めて、内臓が持ち上がる感覚を意識しましょう。手の指と下っ腹を比べると一目瞭然ですが、動かさないところは脂肪がつきます。慣れてきたら左右にゆれて、おなかや骨盤回りを意識的に動かしてみましょう。

−−1日にだいたい、どれぐらいの時間座るといいんでしょうか。
伊藤 5分間でも、30分間、1時間でも、好きなだけ座っていただいて大丈夫です。ただし、満腹のときは気持ち悪くなる恐れがあるので避けてください。また、あまりに長時間座り続けると、人によっては疲れてしまうこともあるので、体調を見ながら“疲れすぎない程度”がおすすめです。

−−座れば座るほどいいというわけでもないんですね。
伊藤 一回だけがんばるより、一回ごとは少しずつで構わないので、できるだけ毎日体を動かしたほうが、ダイエット効果は出やすいです。「お昼前の一時間は座る」「残業になったら、クッションに座って正しい呼吸法を10回」などとルールを決めておくと、習慣化しやすいかもしれません。

−−「正しい呼吸」のポイントを教えてください。
伊藤 クッションに横向きに置いて座り、背筋を伸ばします。鼻からたくさん息を吸い込み、肺やおなかに空気が行き渡るのを意識しながら、肩甲骨を下げ、首の後ろを伸ばします。口からゆっくり長く息を吐き出し、おなかをへこませます。おなかと背中がくっつくようなイメージです。これを毎日10回やると、自然と腹筋が鍛えられます。



<<毎日好きなものを好きなだけ食べていたら絶対太ります>>

−−ふだん、何げなく行ってる呼吸も、クッションに座って意識しながら行うと、印象が変わりますね。背筋が伸びて始めて、猫背だったことに気づけるというか……。

伊藤 自分の体に意識を向けることが最初の一歩です。運動だけのカロリーでやせようと思っても、それだけでは難しい。だって、30分走っても消費カロリーはせいぜい400kcalですよ。ハンバーガーひとつ食べたら、チャラになってしまう。でも、体に意識が向くようになると、自然と日常の過ごし方も変わってくるんです。

−−「体型維持のために、これだけはやらない」と決めていることはあったりしますか。
伊藤 ありますよ! 「暴飲暴食は絶対にしない」と決めています。毎日好きなものを好きなだけ食べていたら絶対太ります。とはいえ、いきなり節制を始めるのは、急な運動と同様、長続きしないので、まずは「好きなものを好きなだけ食べるのは1日おき」にしてみる。慣れてきたら3日に1回、週に1回と間隔をあけていきます。

−−好きなものを食べたいという欲求はそうそう手放せない気もしますが……。
伊藤 「食べたくて、食べたくて……」という欲求そのものが錯覚の可能性もありますよ。じつは私、競泳選手を引退するまで、「ヘンなタイミングにやたらとおなかが減る」という感覚を経験したことがなかったんです。

−−え? どういうことですか!
伊藤  日常的に運動していると、自分がどれぐらいカロリーを消費しているのか、体感ベースでわかるし、食欲もコントロールしやすいんです。私の場合、物心がついてから引退するまでほぼ毎日泳いでいたので、“運動しない日”が存在しませんでした。だから、現役選手時代はとくに我慢しなくても、必要以上におなかが減らなかったし、ダイエットの苦労を実感したことがありませんでした。ところが、引退して運動しなくなると、消費カロリーと関係なくおなかが減るし、惰性でいっぱい食べちゃうこともある。「周囲のみんなが悩まされていたのはこれか!」と(笑)。

−−「頭を使うと、やたらと甘いものが食べたくなる」というのも、もしかして錯覚なんでしょうか。
伊藤 そうですね。「食べたい! 我慢できない!!」と思ったときほど、ちょっと体を動かしてみるのがおすすめです。体が欲しているというのはじつは錯覚というケースが少なくありません。クッションの上に座って前後左右にゆれるだけでもいいですし、ピラティスのポーズをもとにしたエクササイズもあります。

−−クッションに座りながらピラティスができるんですか。
伊藤:そうなんです。クッションに座ることでピラティスの基本姿勢である「ニュートラルポジション」と、基本の動き「Cカーブ」が自然にできるので運動の効果が出やすいんです。自宅でピラティスをやってみたいんだけれど、正しい姿勢ができているか不安で……という人にもおすすめです。

<<体と向き合うと、心も整う>>
−−何か、おすすめのエクササイズをひとつ教えてください。

伊藤 首筋をのばすエクササイズをしてみましょう。バランスクッションを縦向きに置いて、その上に座ります。鼻から息を吸って、口からゆっくりはきながら頭に右手を添え、顔を左に倒します。左側の首筋が伸びるのを意識しながら、10秒間キープ。鼻から息を吸い、ゆっくり元の位置に戻します。反対側も同じようにやってみましょう。ポイントは顔を倒すときに、体も一緒に曲がらないようにすること。寒くなると体が縮こまり、猫背や肩こりになりやすくなります。ときどき、首筋を伸ばしてあげると、背中のハリをやわらげるのにも役立ちます。



−−エクササイズをすると、「首が縮こまっていた」「肩がこわばっていた」などの体の状態を実感できますね。

伊藤 自分の体と向き合うのはすごく大切なことです。「自分の体が今、どのような状態なのか」に意識が集中すると、余計なことを考えなくなります。たとえば、やる気が出ないなときはクッションのうえでゆらゆら揺れてみる。すると、気分転換にもなりますし、こわばった体がほぐれて温まります。ゆっくり深く深呼吸するだけでも、ストレスをやわらげることができます。ダイエットはもちろん、ストレスマネジメントにもぜひ、試してみてください。
(島影真奈美)