役所広司、小栗旬が初共演した「キツツキと雨」が今週土曜の2月11日から公開されます。並んで座る人気俳優と手書きイラスト風の雲と雨。
チラシからにじみ出るほっこり感から分かる通り、二人の男の交流を描いたハート・ウォーミング・ストーリーで、あらすじはこんなかんじ。

東京から遠く離れた山村に映画の撮影隊がやってきた。デビュー作の撮影で緊張しまくっている新人監督の幸一(小栗旬)と、ひょんなことから撮影に巻き込まれた地元の木こりの克彦(役所広司)。二人を中心にして、撮影隊と村人も映画撮影を通じて交流を深めていく…。

いい話! ただし、撮影している映画の内容はこんなかんじ。

近未来、ゾンビが現れて人口が6000人程度まで激減した日本。
何故か生まれる子供もたまにゾンビなため、その場合はひっそりと川に流している。主人公のリンコは愛する人をゾンビに殺され、同じ境遇の女が集う対ゾンビ戦闘組織”竹やり隊”に入るが、実は兄が居たことを父親から告白されて…。

ガチでB級のゾンビ映画! そう、「キツツキと雨」はただの感動映画じゃないんです。みんなで一緒にゾンビ映画を撮影する感動映画なんです。

撮影隊と村人の間には、生活習慣や職業や価値観はもちろん、ゾンビ観にも大きな違いがあります。デビュー作でゾンビ映画を選ぶところから分かる通り、新人監督の幸一はすごいゾンビ好き。
知らない人とはあまり話せないし俳優への演技指導もおぼつかないのに、「ゾンビって何?」と聞かれると「ゾンビというのはですね、もともとハイチのブードゥー教の蛇の神様ンザンビが…」と要らないことまで熱心にしゃべって「監督、邪魔です」と大道具さんに押しのけられる始末。一方で木こりの克彦は、「ゾンビって人を食うんか」というくらいにほとんど知らない。他の村人もだいたい同じようなもの。

ゾンビ好きって、こういう状況だと「ゾンビ」って言ったらバカにされやしないか不安になります。「えっ死体?」(気持ち悪そうな目)とか「なんでそんなもの好きなんですか」とか。頑張って説明すると「本当はいないんですよ?」と心配されたりする。
幸一も最初は撮影のプレッシャーで自信を失っていることもあり、どうせゾンビなんて…という気持ちでいる。

だけど、村人たちはすごくリアクションが素直なんです。特に役所広司演じる克彦がゾンビと映画を好きになってく様子がすごくいい。最初は巻き込まれた撮影にイヤイヤ参加して、半ば無理矢理ゾンビ役をやらされたものの、木こり仲間から「映画出るなんてすげえじゃん、克彦さん!」とほめられたせいで嬉しくなって(このテレ笑顔がまたいい)、温泉に入りながらこっそりゾンビの練習をしたり、幸一が書いた台本を読んで涙ぐんだりする。幸一も「ほんとうに、面白いですか?」とためらいつつ「少し未来に、人口が6000人くらいになって…」とか設定を説明すると、「おお、ずいぶん減ったねえ!」と感心してくれる克彦の姿をみているうちに、少しずつ自信をつけて撮影を楽しめるようになっていきます。

このターニングポイントが、たくさんの村人がゾンビメイクで突進してくるシーン(予告映像でも大きく取り上げられています)。
「ぞんび〜」と言うからゾンビなんだ、と誤解した村人が、「ぞんび〜、ぞんび〜」と叫んでいるうちになぜかテンションが上がってしまって、みんなで走りだしてしまう。そこで今までハッキリ主張できなかった幸一が「カットカット!カットです!」と止めてから、こう言ってダメだしします。

「ゾンビは走りません!」

ゾンビ映画は大きく分けて、ストーリーや人間ドラマをじっくり楽しむ”歩くゾンビもの”と、派手なアクションとテンポの良さを楽しむ”走るゾンビもの”があって、歩く方が好き、走る方は認めない、ってこだわりを持つゾンビ好きもいるんですね。幸一もこだわり派だから、ここだけは譲れない。初めてハッキリ意見するきっかけがコレっていうところに、大きなゾンビ愛を感じました。このゾンビ愛あふれる「キツツキと雨」を監督したのは、「南極料理人」の沖田修一。
星野源が歌う主題歌「フィルム」のミュージックビデオ(予告)でも、朝の出勤途中に見かけるゾンビ、自動改札にひっかかるゾンビ、針金ハンガーを頭にはめられると片側にひっぱれたような気がしてその場で回ってしまうゾンビ等、ありそうでなかった日本的なゾンビ描写をガンガン打ち出していたので、相当のゾンビ好きだとお見受けします。

沖田監督は小説版「キツツキと雨 ユートピアを探して」も書いていて、こちらはロケハン(撮影のための下見)に来たスタッフと町の観光課の交流を描く、映画版の前日談。映画版とはメインの登場人物が異なり、(撮影前なので)ゾンビはあまり出てこないものの、映画をまったく知らない町の観光課の人たちと「ゾンビ映画っていうと断られるかも」と微妙にお茶を濁しながら話を進めようとするスタッフの微妙な距離感、少しずつ打ち解けていく様子は映画版と同様にほっこりと楽しめます。ゾンビ好きに向けてのサービスか、ところどころに劇中ゾンビ映画「ユートピア 〜ゾンビ大戦争〜」のシナリオが挿入されているところもポイント。復讐を誓う強い女主人公、身内をゾンビと割り切れない父親、歯が無いから噛みつけない赤ん坊ゾンビ、片足ながら勇敢に戦うゾンビハンター、鶏肉ばかり食べてたら鳥に変態した鳥女ゾンビなど燃える設定がたくさん。できればスピンオフでこっちも映画化してほしい!(tk_zombie)