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松山ケンイチ、瑛太、村川絵梨、貫地谷しほり。森田芳光が遺作「僕達急行」で描いた不自然な男女関係

2012年4月20日 11時00分

ライター情報:近藤正高

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『僕達急行 A列車で行こう』パンフレット
キャストの紹介、監督インタビューのほか、ロケ地の紹介や劇中に登場する鉄道用語の解説などを収録、映画をより楽しめるようになっている。裏表紙に「恋と仕事と好きなコト――森田芳光監督からのラストエール」とある以外は、監督の死を伝える記述は一切なしというのが粋に感じた。

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森田芳光監督の映画には、不自然ともいえる人間関係がよく出てきました。たとえば「家族ゲーム」(1983年)における家族が横一列に並んでの食事シーンは、家族というものの不自然さを端的に示していたといえます。

男女の関係についても同様です。森田監督の劇場デビュー作である「の・ようなもの」(1981年)には、落語家の卵がフーゾク嬢と女子高生の3人でデートするというシーンがあったし、「(ハル)」(1996年)ではパソコン通信による男女の出会いという、当時としては不自然のきわみというしかない新たな人間関係が描かれていました。原作つきの作品でも、たとえば「間宮兄弟」(江國香織原作、2006年)には、オタクな兄弟がホームパーティーを企画して意中の女性を招く場面が出てきますが、その様子がどうにも不自然というかぎこちない。

そもそも恋愛自体が不自然なものなのかもしれません。いや、正確にいうなら、最初はキャラをつくったりロールプレイングしながら段階を踏んでいき、それなりに自然な関係へと落ち着くのが恋愛というものなんでしょうが、それが苦手な人は不自然なままで終わってしまうわけです、ハイ。

森田監督は新作となる「僕達急行 A列車で行こう」でもまた、どうにも不自然な男女の関係を描いています。この映画の主人公は松山ケンイチ演じる大手デベロッパーの社員と、瑛太演じる東京・蒲田の町工場の跡取り息子。2人とも熱烈な鉄道ファン、いわゆるテツです。群馬と栃木の県境を走るわたらせ渓谷鐡道で出会った2人は、その後瑛太の地元にほど近い京急大師線で再会、親交が始まります。

まあ、2人ともイケメンだからモテるわけですよ。とくに松ケンはモテモテ。勤務先の会社の社長秘書(村川絵梨)からはしょっちゅう声をかけられるし、駅でたまたま知り合ったOL(貫地谷しほり)とはちょこちょこ会っては食事をしたりしています。ただ、積極的にモーションをかける貫地谷に対し、松ケンの態度はいまいちはっきりしません。結局2人の関係は進展しないうちに、彼は福岡の九州支社へ転勤してしまいます。

「僕達急行」は森田監督がじつに“構想30余年”の末に実現したという鉄道映画です。思えば前出の「(ハル)」では、パソ通で知り合った男女が、疾走する東北新幹線の窓越しに“初対面”を果たしていたし、「間宮兄弟」には兄弟が帰省する新幹線で、車窓を眺めながら延々とウンチクを傾けあうシーンがありました。
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ライター情報

近藤正高

ライター。1976年生まれ。エキレビ!では歴史・科学からドラマ・アイドルまで手広く執筆。著書に『タモリと戦後ニッポン』(講談社現代新書)など。愛知県在住。

URL:Culture Vulture

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