ついに最終話が放送された人気TVアニメ「モーレツ宇宙海賊」。しかし、加藤茉莉香船長と宇宙海賊船・弁天丸の冒険はまだまだ終わりません。
最終回のエンドカードで告知されたとおり、なんと、劇場版の制作が決定! 佐藤竜雄監督への2度目のインタビュー後編では、最終回の話題とともに、劇場版の最新情報も伺いました。
前編はこちら)

――茉莉香たちとクォーツの関係を、プロレスラーと総合格闘家に例えたお話の続きですが。総合格闘家にケンカを売られたプロレスラーたちが、反撃をするという感じなのですね。
佐藤 はい。そこで、プロレスラーと総合の選手がガチで戦って。最後は、プロレスラーがプロレス技で勝つ、という話です。
昔で言うと、新日本プロレスとUWFインターの対抗戦で、武藤敬司が高田延彦に勝った試合ですね(笑)。フィニッシュが、ドラゴンスクリューからの4の字固めですから。
――ベタベタなプロレス技ですね。
佐藤 そうそう。あと、ちょっと前の映画ですが、ミッキー・ロークの「レスラー」という、ベテランレスラーの悲哀を描いた作品があるんです。周りに八百長とかインチキとか言われても、あくまでも自分が好きなプロレス道を押し通すという話で。
そのイメージもありました。ショーだ営業だと揶揄されていても、私掠船免状を持っている海賊たちは、誇りを抱いて仕事をしている。どんな職業であれ、誇りを持ってやっている人間がいる以上、その仕事は悪いもんじゃない。それに対して侮辱をすると、人はいかに痛いしっぺ返しをくらうか、という話。そのあたり、僕のここ数年のいろいろな思いも入っています(笑)。
――そうなんですね(笑)。
5話の段階で普通の女子高生だった茉莉香が海賊になれたのは、海賊がショー的な仕事だからですよね。そこの根本を覆す話が最後にくるんだなと、驚きました。
佐藤 5話の段階では、「あんたはいるだけで良いから」って感じで海賊の船長になるんですよね。14話以降、ベテランのクルーがおらず、ヨット部の仲間たちと海賊の仕事をやっていく中で、茉莉香は、自分の海賊の力をいかに使うべきかってことを、考えていったと思うんですね。そして、アイちゃんとのレースや、ヨットレース大会の警備の仕事などを通じて、自分のいるべき世界を実感していく。最終局面に向かっていく中、茉莉香にとって海賊であることの意味は、5話で「私、海賊になります」と言った意味とは、ずいぶん違うものに変わってると思います。

――クォーツと、そのお目付役のような形で現れる海賊・鉄の髭については、どのようなキャラとしてイメージされたのでしょうか。
佐藤 クォーツは、茉莉香たちのやっている海賊は海賊ではないと言い、自分は茉莉香たちよりも上位の本当の海賊だと思っている。でも、実はクォーツも銀河帝国のお墨付きを貰っているだけで。スケールは違うけど、チアキの父親である(海賊船バルバローサの船長の)ケンジョーたちと本質的には変わらない。彼女たちよりもっと先を見据えているのが、鉄の髭ですね。最後、グリューエルが「ゴンザエモン船長」って言っちゃってますけど(笑)。

――先代の弁天丸船長で、茉莉香の父親のゴンザエモン加藤が生きていたという展開は、意外でした。
佐藤 なぜ死んだ真似までして、銀河帝国の海賊になってるのかというと、しがらみを振り捨てたかったんでしょうね。今は帝国の海賊ですが、最終的にはそれもぶっちぎるんでしょう。鉄の髭は、本当に外へ外へと向かっていく人で。クォーツは、銀河帝国の中での海賊に固執している人。そういう対比でもあります。

――ところで、クォーツが操る機動戦艦グランドクロスと、海賊船団との最後の戦いで、チアキが弁天丸ではなく、バルバルーサに乗りますよね。「茉莉香のいる弁天丸ではないんだな」とも思いました。
佐藤 そこはやっぱり、バルバルーサの船長の娘っていうしがらみがある。あくまでも自分はバルバルーサの跡継ぎであるというのを意識して、あえて乗ってるんですね。その展開もあるので、エンディングではバルバルーサ用の服を着せてたわけです。本編での登場回数少ないですけど、チアキの中でのけじめなんですよね。ただ、そう思ってはいても、茉莉香を見ていると、自分は船長の器ではないと思ってしまう。
――なるほど。
佐藤 なおかつ、茉莉香の横にいると、何かをしてあげたいという副官的な感情が出てきて、自分はやっぱり、副官の方が向いてるんじゃないかと考え出してると思うんですよね。「茉莉香についていきたいな」っていうのが、おそらく本音でしょう。なのに彼女は血筋というか、海賊の宿命にしばられている。父親のケンジョーには、「自分は海賊をやっていくけど、お前は良いんだよ」と言わせてますけどね。おそらく今後、茉莉香やチアキたちが活躍していく中で、海明星の海賊のシステムも、どんどん変わっていくでしょうね。
――チアキも認めているように、終盤では茉莉香の船長ぶりが際だってきて。「なぜ私が海賊なのか。それは私が加藤茉莉香だから」とか、海賊であることへのプライドやこだわりを感じさせるセリフが次々と出てきます。
佐藤 一言で言えば、性に合ってるんでしょう(笑)。性に合ってたからこそ、なることに決めたし。性に合ってたからこそ、きっとこの先、お膳立てされている中での海賊営業には満足行かなくなるのでは。でも、茉莉香の良いところは、そこで反旗を翻して、体制を打破しようとかするのではなくて。自然にやれちゃってるところですよね。
――自由人のようでいて、実は、その状況への適応力も高いですよね。
佐藤 でも、結果的には、状況を大きく逸脱していくんですけどね(笑)。
――確かに(笑)。あと、海賊に対する思い入れはすごく強くなってるのに、最終回で「もうちょっと女子高生海賊で」と言い、エンディングでも今までと同じ女子高生海賊の日々が描かれている。最後まで茉莉香らしくて良いですね。
佐藤 そこの振幅の差を楽しんでいるんでしょう。ステップアップで学校を捨てるのではなく、親友のマミもヨット部の仲間もいる、自分の最初の大事な場所として学校を選んで、そこから外に広がっていく。最終的には、弁天丸に乗って、宇宙を飛び回ることになるんでしょうけどね。
――ちなみに、ラスボスが「機動戦艦」だった点も、監督の代表作「機動戦艦ナデシコ」のファンとして気になりました。
佐藤 「ナデシコ」の劇場版を作った時に「本当の機動戦艦というのは何だろう?」と考えたことがありまして。「戦艦の航続距離と戦闘機の機動性を兼ね備え……重力制御はあるとしても、もはや、パイロットは1人だよなあ。そうなってくると、コアブロックに艦長1人か……」とか考えていましたが、結局、劇場版では使いませんでした。そんな戦い方は、(劇場版で艦長になった)ルリの柄じゃないし。当時の(アニメの)技術だと、時間的に無理だったので。今回、「機動戦艦」を登場させた理由は、そのアイディアを今の技術ならば描写可能かな、と思ったというタイミングが一番ですね。たしかに、「なぜ、機動戦艦という名称を?」と思われるかもしれませんが、茉莉香たちの海賊船団との対比のために、あえて引っ張り出してきたわけです。まあ、諸々のために溜めていたネタやアイディアを、これからはどんどん放出するぞ、という僕の決意の表れでもあります。
――なるほど~。ラストバトルも終え、最終回を締めくくったのは、茉莉香の決めゼリフ「さぁ、海賊の時間だ!」でした。このセリフは最初から、このような使い方をしようと考えていたのですか?
佐藤 最初は、単純に「ショウタイム!」の意味合いだったんですけど。一番大きいのは、小松さんの「さぁ、海賊の時間だ!」という言い回しが非常に決まっていたこと。決めゼリフになっちゃったんですね、だから、10話以降、茉莉香が海賊として自分の矜持を貫く時の決めセリフとして使おうと。もし、小松さんのセリフがあまり決まってなかったら、単なる営業用のセリフだったかもしれません。まあ、すでに最終回までの台本は書いていたし、最終回で使おうと考えてはいたんですけどね(笑)。
――小松さんの芝居がはまって、期待以上に効果的なセリフになった?
佐藤 そうですね。あと、最初は「海賊の時間よ!」だったんです。でも、チアキが茉莉香の真似をする時との差をつけるために、チアキは「よ」のままで、茉莉香の方は「だ」に変えたんです。「だ」にして良かったですね。茉莉香に関しては、「え~~」っていう叫びと「海賊の時間だ!」が、すごくハマリましたね。
――僕も「え~~」が大好きです。
佐藤 耳障りが良いですよね。人によってはキンキンしちゃう場合もあるんですけど。小松さんの「え~~」は良い感じで和む。茉莉香本人が大変そうなわりには(笑)。
――僕は、この2クール、茉莉香を追いかけつつ、同時に小松未可子ファンにもなっていったのですが(笑)。茉莉香と同様、小松さんの変化や成長も感じられましたか?
佐藤 はい。本人も、かなり茉莉香に背を押されてきた、と言ってますね。そういう風に、役が本人のパーソナリティに影響していくことは、なかなかないので。良いものを見せてもらっているな、と(笑)。
――小松さんは歌も素敵ですよね。「Black Holy」と「透明な夜空 〜瞬く星に包まれて〜」が、9話や12話などのエンディングでも流れて。12話では「モーパイ最終回?」と思うくらいの高揚感が(笑)。
佐藤 最初から小松さんに歌を歌ってもらう事は聞いてたんですけど、音響作業が先行していたので、使えなかったんですよ。折り返しの12、13話くらいの作業をしている時に、ようやく小松さんの歌を聴きまして。9話まで遡って、エンディングの音を入れ直したんです。音響が先行し過ぎると、こういうことになるんだなって思いました。後から、良い曲が来た時どうするんだよ、と(笑)。たまたま今回は、予定よりも放送開始が延びたから入れられたんですけどね。
――放送開始が遅れて良かった(笑)。そして、最終回のラストに劇場版の制作決定が発表されたわけですが。どんな劇場版になるのでしょう?
佐藤 最終回でようやく、本当の意味での「モーレツ宇宙海賊」になれたと思うんですよね。1話の時点では「なんでモーレツなの?」って感じられていたと思うんですけど。最終話でここまで行っちゃうのなら「たしかにモーレツだな」と思って下さる方もいるだろうと。なので劇場版では、モーレツになっちゃった茉莉香が、どれくらいさらにモーレツにやっていくのかを描ければいいなと。
――26話の先の物語が見られるのですね! 劇場版ならではのモーレツさに期待してしまいます。
佐藤 いろんなことできますよね。まあ、予算の制約はありますけど(笑)。でもやっぱり、映画ならではの情報量の組み合わせ方はあると思うので。テレビアニメの制作がデジタルハイビジョンになっても、テレビなりの画面作りだったりするんですね。映画には映画の作りがある。特に宇宙ものなので。そこはきちんと、モーレツな映画として作りたいですね。
(丸本大輔)