2010年に放映が開始されると同時に、全世界のシャーロキアン(シャーロック・ホームズのファン)の心と、シャーロキアンじゃない人達の心を鷲づかみにして、イギリスのほとんどの賞を総なめにした今世紀最強のドラマ。それが「SHERLOCK」です!

SHERLOCKは「もしも21世紀にシャーロック・ホームズがいたら?」というifのもとに作られた、イギリスのBBC制作のドラマです。
現在のところ、第一シーズン3話(日本では2011年に放映)と第二シーズン3話(日本では7月22日、29日、8月5日に放映)が制作されています。

このSHERLOCKにおいて、シャーロックは原作であるヴィクトリア朝時代とは異なり、最新のテクノロジーも使いまくりです。スマートフォンは使うし(固定電話どころの騒ぎじゃない!)パソコンは使うし(VAIOからMacBookProへと話の途中で変わりました)タクシーは使うし(辻馬車とか、無いですよね)GPSだって駆使しちゃう。でもこれが、見事にシャーロック・ホームズの物語と合うのですね。現代ギミックを駆使していながら、根本がきちんとシャーロック・ホームズなのです。

主人公であるシャーロック・ホームズは自らを高機能社会不適合者と自認する、「コンサルタント探偵」です。
コンサルタント探偵とは、この物語中にシャーロックが自ら名乗った職業で、世界でただ一人の、警察に手に負えない事件が発生したときに相談に乗る探偵なのです。警官からは疎まれつつも、難事件を解決する。なので警察も邪険にできない。でも基本的には友情も信じないし愛情も信じないし、一歩間違えたら犯罪者という勢い。重度のタバコ中毒だけど禁煙中なのでニコチンパッチ中毒(原作ではコカインでしたね)だし、考え事があると相手がいようといまいと(留守だろうと気にせずに)話しかけては後で聞いていないと怒り、空気を読まずにずびずば自分の言いたいことを相手に言うし、奇妙な依頼があればそれが殺人でも「すばらしい!」と絶叫して踊りながら喜びを表す。それが現代版シャーロックなのです。


そして相棒であるジョン・ワトソンは、アフガニスタン帰りの軍医で、戦場でPTSDになります。そこでカウンセラーにブログを開設することを薦められるのです。そう、原作ではワトソンがシャーロックの活躍を描いた小説を書くのですが、現代のワトソンはその代わりに、事件をブログにまとめるのです。しかも、これが超人気! いつもはシャーロックに振り回され放題に振り回されているのですが、ことブログに関してはカリスマブロガーとしてのプライドがあります。内容についてのシャーロックからの文句もどこ吹く風。「これがウケるんだよ!」とか言っちゃったりします。
ワトソンもとことん現代的なのですね。

この二人が、様々な事件に挑みます。もちろん連絡は携帯でとるし、メールはするし、現代機器は使いまくり。ワトソンを現場にやって、Skype(?)のビデオチャットで現場を見ながら推理しちゃったりもするのです。でも、根底はしっかりとシャーロックホームズなのですね。

二人が住んでいるのはベーカー街221Bだし、大家さんはハドソン夫人だし、レストレード警部は出てくるし、お兄さんはマイクロフトだし。
さらに原作のアレンジの仕方もとてもうまいのですね。シャーロック・ホームズと言えば、初めて会った人を見て、その人がどんな人かを当てるシーンがとても有名ですが、もちろんこのシャーロックも当てまくります。そのときに、気になる部位がアップになり、文字が浮かび上がる演出はまさに必見!

ちなみにシャーロックがワトソンに初めて会ったときに素性を看破するシーンでは、携帯を見てあれこれ見破ります。原作では有名な、時計を見てあれこれ見破るシーンの現代版ですね。シャーロックがこの種明かしをしたときの二人の会話が傑作で、ちょっと引用してみましょうか。

ワトソン「見事な推理だ」
ホームズ「ほんとか?」
ワトソン「もちろん。
本当だ。見事なものだ」
ホームズ「まれな意見だ」
ワトソン「他の人は何て?」
ホームズ「『うるせえ』って」

もう、このシーンで心をぐわっともっていかれました。はまりました。

ちょっと複雑なのですが、物語はワトソンの書いたブログという視点で描かれています。作中にブログを書き始め、しかも登場人物がワトソンのブログを読んであれこれ言ったりするのですね。原作でも有名な話なのですが、シャーロックが地動説を知らないということをワトソンがブログに書くと、シャーロックは警官達に「地動説を知らないって本当かい?」とからかわれたりします。
そのたびにシャーロックは「おい、ジョン!」と言ったり。こういった、原作を読み込んでいる人はくすりとできるポイントも随所に隠されています。でも、それがかなりさりげないので、知らなくても楽しめます。

さらにこのドラマに出てくるブログを、実際に作ってしまうという凝りよう。
シャーロック・ホームズの「推理の科学」や、ジョン・ワトソンの「ブログ」だけでなく、法医学者のモリーのブログまであるというのです。これらのブログは、コメントも含めて作り込まれています。

このドラマの優れているところは、主人公二人の演技もさることながら、脚本の見事さにつきるでしょう。見事にシャーロック・ホームズの有名な話をベースにしながらも、現代の新しい物語に置き換えているのです。

あまり元ネタを紹介しすぎると、ドラマを見る前に何となくトリックがわかっちゃうかもしれないので少しだけ。例えば第一話:ピンク色の研究(A Study in Pink)は緋色の研究(A Study in Scarlet)へのオマージュ。第二話:死を呼ぶ暗号(The Blind Banker)は踊る人形(The Adventure of the Dancing Man)へのオマージュだったりするのですね。あとわかりやすいのは第五話(シリーズ2の第二話):バスカビルの犬(The Hounds of Baskerville)がバスカビル家の犬(The Hound of the Baskerville)でしょうか。

さらにドラマにはなっていないのですが、作中で登場するブログのタイトルにはオタクな通訳(ギリシャ語通訳?)、まだらのブロンド女(もちろんまだらの紐!)やなんかもでてきて、原作ファンの心をくすぐります。

個人的に一番のお気に入りは、第四話の「ベルグレービアの醜聞」ですね。その解決方法というか、最後のオチが示されたとき、文字通り鳥肌が立ちました。話が美しすぎるのです。必見です。

と、興奮のままに語ってきましたが、最後にもうちょっとだけ背景を語りましょう。

シャーロック役の役者はベネディクト・カンバーバッチ。このドラマで人気を不動の物にして、スタートレックにも出演が噂されていたりします。第五話では「おい、スポック」なんてジョンに呼ばれるシーンもあるのは、この辺のジョークなのでしょう。

ワトソン役のマーティン・フリーマンも人気が爆発。「ロード・オブ・ザ・リングス」の前日譚である「ホビット」では主役のビルボ・バギンスを演じるそうです(ちなみにカンバーバッチも声で出演とか)。

ロケ地はもちろん現在のロンドンそのものです。ロンドンのいろいろな光景を見れたりもしますね。BGMもまたいいんです。新しすぎず、古すぎず、ちょっと風変わりで、まさに現代によみがえったシャーロック・ホームズにふさわしい音楽なのですね。音楽についてはちょっと語彙が足りないのでこれぐらいで勘弁してください。

とにかくあらゆる角度から隙が無く(なにせ、オリンピックもあるのに放映されてから3日に1回は見直しているぐらいです)今世紀最強に面白すぎるドラマなのです。あれです。SHERLOCKが面白すぎて生きていくのがつらい、というレベルなのです。

シャーロキアンも納得の、そうでない人でも楽しめる、このドラマ。シャーロキアンじゃない人は、BBCの日本公式Twitterアカウントをフォローすると、シャーロックホームズトリビアを読めるので、まずはここから入るといいかもしれません。

うれしい情報としては、もうすでに第3シーズンの制作が決定していて、詳しい情報は8月24日のエディンバラTVフェスティバルで明かされるそうです。でもその前に、第2シーズン最終回の8月5日(日)の放送を見逃すな!!
(杉村 啓)