引きこもりでDVだった実森くん(岡山天音)一家が、凄惨な心中を遂げてしまった。
現場に駆けつけていた教師・巣藤浚介(伊藤淳史)は、被疑者として取り調べを受けるが、本当にあやしいのは、死体を勝手に動かしていた氷崎游子(松雪泰子)と、現場にあった証拠品のひとつ・ライターと同じものを使っていた刑事・馬見原(遠藤憲一)のふたり。

実森くん一家を狩ったのはどっちだ? と気になる「家族狩り」(TBS、金曜22時〜/原作・天童荒太)第7話(8月15日放送)。

まさか氷崎游子が・・・彼女の知らない顔に不安を覚える巣藤。
話をはしょってしまうと、7話の最後、巣藤は氷崎から彼女の過去のトラウマを打ち明けられて、疑いの気持ちを払拭。そして、ふたりは、生きよう、と前を向く。というちょっといい話になっていた。

「今がどんなに苦しくても惨めでも
絶対死んじゃダメだ」という巣藤。

「生きてたら、生きててよかったって思える事がきっとある。おいしいもの食べれるってだけでも生きてなきゃ」と。
そんな話をしている背景は、キラキラと川面が光っている。
惨いことばかり起こって辛過ぎるとうなだれていた方も、安心してご覧になれただろう。
それはまるで、エヴァンゲリオン旧劇場版で辛い気持ちになった人たちが、新劇場版(特に「破」)でポカポカしちゃったような感じになってきている感じ?
ちょうど今週から、「ヱヴァンゲリヲン新劇場版」序、破、Qが三週連続で裏番組になるので、「家族狩り」踏ん張りどころである。

そんなとき、頼りになるのは、巣藤の教え子・渓徳(北山宏光)。

7話で、巣藤が、氷崎とちゃんと向き合おうと思い直したきっかけは、彼の助言だった。
前から、渓徳は、このドラマの救いだと思ってはいたが、7話はかなりの活躍を見せた。

氷崎に隠された面を心配してくよくよする巣藤に、渓徳は「ばかじゃね」と活を入れる。
渓徳も、奥さんのことを結婚前だけでなく、結婚してからもわからないと言い、
自分の子供かわからないからDNA鑑定したいのはやまやまだけど、我慢しているとまで。
極めつけは、この台詞。
「男はねバカな生き物なんすよ。

いくら考えたって探ったって悶々とするだけのバカな生き物なんす。
だから女には正面からぶつかるしかないす。
ぶつかって相手のこと受けとめて全部信じる。
くるっとまるっとぷりっと全部信じる。
男はそうするしかないんすよ」
名言として書き留めろといわんばかりの男気あふれる台詞に、巣藤先生は励まされる。

年齢も立場もまるで逆転してしまったかのような巣藤と渓徳は、男泣きしながら、月に吠える。

そこにかぶるのは、「わおーん」という獣の声。
あ。いまさら気づいた。獣の声のSEがやたらとかかるのは、「狩り」という言葉を使っているだけあって、人間の内に潜む獣性の表現だったのか。
その野生の本能は、理性がつくりあげた家族というシステムを狩るのだ。ぞくり。

まあ、人間の中の獣は、こわいだけではなく、渓徳のように勉強はできなくても、ヤンキーでも、相手をただただ真っすぐに受け止めて信じるという行為もそのひとつであり、それは善なる獣性と思う。
北山宏光は、無知の知ともいえる哲学的な渓徳を、透明な明るさで演じている。

それに比べて、氷崎は、顔を真っ暗に映されて、表情がまったく見えないシーンがあった。主演女優の顔をこんなに真っ暗にしていいのかというくらいのチャレンジ画面は、その人の見えない部分を感じさせる。
6話でも、真っ黒アップがあった。「氷崎〜」とうらめしそうに言ってる人が、真っ黒過ぎて、シロアリ駆除業者の大野(藤本隆宏・安堂ロイドでナビエ役だった人)なのか、そのアシスタントになった、アルコール依存症でDV(このドラマ、DV率高いな。
冬島綾女の夫・油井の暴力も相当のもの。子供可哀想だった)のシングルファーザー駒田(岡田浩暉)なのか、判別が難しい場面だった。

また、4話で感動したレーズンパンの話にも、別の側面が。
「(レーズンパン)うまかったけど、世界にはさ、もっともっと、美味しいものがあるんだってことを教えてあげたかったよ」と、亡くなった実森を思い返す巣藤。
コンビニやるな、とレーズンパンを褒めていた巣藤だったが、実は、コンビニのレーズンパンという狭い世界しか知らない実森を少し不憫に思っていたらしい。巣藤は美食家だったらしい。でも、そんなそぶりを見せず、美味しいね、と言って、一緒に味わえる巣藤はいい人だなと思う。

「家族狩り」は裏表のない、いい人が少ないので、巣藤と渓徳は貴重な存在。
とはいえ、ほんとに彼らに裏がないのか、最後の最後まで気は抜けない。彼らはたとえ裏はなくても裏DVD仲間だから。
シロアリ業者・大野も、やたら明るく、シロアリにやられた氷崎の家を長生きさせてみせると頼もしいことを言って、いい人風なのだが、なぜか、やな予感しかしない。なにしろ、氷崎家、騙されがちな気がするから。

馬見原の部下で、証拠品のライターらしきものを彼が使っていることに気づいた椎村栄作(平岡祐太)も、一見、真面目な若い刑事という印象だけど、この人すら信じられなくなってきた。
果たして、8話では、誰のどんな獣性が発露するだろうか。ああ、もう、相手のこと受けとめて全部信じたい!
(木俣冬)