今注目のアプリ、書籍をレビュー

0

松尾スズキの傑作ミュージカル「キレイ」は、ますます悪化する日本の闇を告発する

2014年12月15日 10時50分 ライター情報:木俣冬
このエントリーをはてなブックマークに追加

「キレイー神様と待ち合わせした女」
作、演出 松尾スズキ
出演 多部未華子 阿部サダヲ 小池徹平 尾美としのり 田畑智子 松尾スズキ 田辺誠一 松雪泰子 ほか
12月30日まで渋谷Bunkamuraシアターコクーンにて上演中。立ち見券あり。
大阪公演は2015年1月8日(木)~18日(日)大阪シアターBRAVA!

写真撮影 引地信彦

[拡大写真]

松尾スズキが2000年に発表した初めてのミュージカル「キレイー神様と待ち合わせした女」が、2005年の再演以来10年ぶりに再々演されている。

14年前の作品にもかかわらず色あせるどころか、今のほうがより強烈に響いてくる内容であるが、そこにあぐらをかかず、書き換えられた部分もいくつか。そのため、初見のヒトは、こってり濃厚ラーメンを味わうように楽しめるし、何度も見ているヒトは、変わらない味も残しつつ、14年経っても柔軟な店主の健在を大いに喜ぶだろう。

物語の舞台は、過去でも未来でもないパラレルな日本。
100年間に渡って3つの国に分かれた民族紛争が続く中、民族解放軍を名乗るグループが、少女(多部未華子)を誘拐、監禁していた。
10年もの地下生活の後、少女はついに地上に脱出。過去の記憶を失い、自らを「ケガレ」と名付けた少女が新天地で出会ったのは、ダイズでできているダイズ兵・ダイズ丸(阿部サダヲ)、その死体回収業で生計を立てるカネコキネコ(皆川猿時)とその息子で、頭は弱いが枯れ木に花を咲かせる能力を持つ少年ハリコナ(小池徹平)、ダイズ加工会社・ダイダイ食品の社長令嬢カスミ(田畑智子)たちだった。
強烈にクセのある彼らにもまれながら、ケガレは小銭を拾って「いじましく」したたかに生きてゆく。その様子を見つめるひとりの女(松雪泰子)、それはケガレの成人した姿であるミソギだった。ミソギの存在によって、物語は多層化し、ミステリアスな様相を呈していく。

戦争で死ぬために生まれた、生殖機能のない人間ダイズ兵、その死体を食べて生きる人々、人間をダイズ兵と食品偽装する者、誘拐監禁された過去のある少女、誘拐・監禁することでしか女性と一緒にいることのできない男、自分の家が行っているダイズ加工を反対する団体を支援することで精神バランスをとる女などなど、「戦争」「去勢された男」「誘拐」「監禁」「食品偽装」・・・といった刺激的なキーワードが現代にはびこる病巣とぴたりと重なる。
それを松尾スズキが14年前に既に描いていたことを驚くと同時に、問題が解決することなくますます深刻化していることに絶望も覚えざるを得ない。
皮肉なのは、この物語の中で、小銭を拾ったり、死体を食ったりしながらいじましくしたたかに生きる人たちの姿が今、ますます希望を与えてくれるということだ。

弱者にとことん優しい松尾の作品が、今こそ必要とされているのを痛感する、その最たる例は、誘拐監禁された主人公ケガレの過去のトラウマの解消の仕方だ。
関連キーワード

ライター情報

木俣冬

著書『挑戦者たち トップアクターズ・ルポルタージュ』、『ケイゾク、SPEC、カイドク』、ノベライズ『リッチマン、プアウーマン』『デート~恋とはどんなものかしら~』

URL:Twitter:@kamitonami

コメントするニャ!
※絵文字使えないニャ!

注目の商品