お正月からいいドラマ見たなあ〜と、幸せな気分になった。

新春スペシャルドラマ「富士ファミリー」(NHK/1月2日よる9時〜)は、脚本を、「すいか」「野ブタをプロデュース。」「Q10」などで人気の木皿泉、演出が、「サラリーマンNE O」「あまちゃん」の吉田照幸、出演者に、小泉今日子、薬師丸ひろ子、吉岡秀隆、片桐はいりなど名優がたくさんそろったうえ、マツコロイドまで登場するという豪華な88分のドラマだった。

ドラマで姫始め。ストローの袋で男女の営みを表現「富士ファミリー」
木皿泉~しあわせのカタチ~DVDブック 河出書房新社

富士山のふもとにあるコンビニ「富士ファミリー」に集う人たちの人生を、優しく、あたたかく、ユーモラスに、ひたすら肯定的に描くその眼差しは、早くも七草粥食べている気分にさせる。とはいえ、登場人物は、前述したとおり、名店のおせち料理みたいでもある。

富士ファミリーで生まれ育った美人三人姉妹、鷹子(薬師丸ひろ子)、ナスミ(小泉今日子)、月美(ミムラ)。ナスミは若くして亡くなり幽霊になって登場。月美は専業主婦で、鷹子が店を継いでいる。一緒にお店を切り盛りしているのが、笑子バアさん(片桐はいり)とナスミの旦那・日出男(吉岡秀隆)。
彼らのそれぞれの物語がナスミのメモに書かれた、四葉のクローバーや懐中電灯などといった7つのキーワードを使って描かれる。それはオムニバスというほど明確に切り分けたものではなく、それぞれの物語がいい案配につながっている。

彼らと物語をつないでいるのは、生きていること。ただそれだけ。年老いた人も、平凡な人も、なんとなくズルズル生きている人も、嘘ついてる人も、幽霊も、生きていていいのだとドラマは語る。その象徴が、小さくて、それほど儲かっているわけでもなく、いつなくなってもおかしくないお店・富士ファミリーであり、身寄りのない笑子バアさんだ。
それだけだったら、ありがちといえばありがち。このドラマでヤラレタと思わせたのは、吸血鬼とアンドロイドと、ストローの袋でできた男女の人形である。

まずは、吸血鬼。夫も子供もいる身の月美がたまたま蕎麦屋で会った男性に部屋に誘われる。彼は吸血鬼だと言い、永遠の命がほしくないかと迫ってきて・・・。そのとき彼女が語る家族のささやかなエピソードがいい。
作家が日々の生活をいかによく観察しているかがわかるものだ。
次に登場するのがアンドロイド。ずっと一緒に店をやっていくかと思っていた鷹子と日出男に新しい生活がはじまりそうで、寂しくなったおばあちゃんが出会ったのは、介護ロボット(マツコロイド!)。この介護が、思いがけないものなのだ。男女の性を超えた存在のマツコが、人間の領域も超えたマツコロイドをこういうふうに使うアイデアが秀逸だ。

88分中、吸血鬼からアンドロイドの流れにいくこここそ、このドラマの心臓部だ。
すでにナスミの幽霊が平然と存在しているので、吸血鬼が出て来てもロボットが出て来てもふつうに受けいれられる構成もみごと。もっとも、吸血鬼はほんとに吸血鬼なのか? と疑問も残る。そこがまた巧い。

ストローの袋でつくった男女の人形の話のまえに、もうひとつ。異形のものたちに負けず、髪の毛の少ないおっさんたちもいい。20年間、鷹子にプロポーズして断られて続けている春田雅男(高橋克実)や、月美と昔つきあっていたことを青春の思い出にしている行田万助(マキタスポーツ)。
雅男の21年めの決意や、鷹子との暗闇、懐中電灯での会話が、このひとの性分を物語るようで微笑ましい。また、万助が月美をうっかり呼び捨てにして、それがつきあっていた証というのが“あるある”だなあと思わせて、さらに続きがあり、にやり。木皿泉は“あるある”に甘んじない。“あるある”からこぼれ落ちたものを拾って、ちょっと埃を払って、掌に乗せて、「ほら!」と誇らし気に見せてくれる。「富士ファミリー」には、木皿泉の「ほら!」がおせち料理三段重ねクラスにたくさんあった。

ストローの袋でできた男女の人形もそのひとつである。

万助が、ストローのふくろでつくった男女の人形を重ねあわせて、そこにストローでジュースをかけると、
人形がくねくね動き出して、男女の営みのように見える。笑子バアさんは大興奮。これが、また、別のシーンでもうまく使われていた。
ストローの袋にジュースかけて遊ぶことは誰でもやったことがあるものだけれど、ドラマでここまで重要な役割を与える木皿泉は偉大だ。

事前の番宣番組で、誰の心にもその人の思う富士山や家族がある、というようなことを、木皿泉(夫婦作家の妻・妻鹿年季子)が語っていたが、このドラマのひとりひとりの生き方を、優しく、あたたかく、ユーモラスに、ひたすら肯定的に描く木皿泉の包容力こそ、富士山である。

オンデマンドでも配信するようなので、見逃した方はぜひ。
(木俣冬)