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「ブリッジ・オブ・スパイ」はスピルバーグの近作では最高の作品 

2016年1月18日 19時12分
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ライター・編集者の飯田一史さんとSF・文芸評論家の藤田直哉さんの対談。トム・ハンクス主演、スティーヴン・スピルバーグ監督の映画『ブリッジ・オブ・スパイ』を扱います。

敵国のスパイの弁護をなぜするのか


(C)2015 DREAMWORKS II DISTRIBUTION CO., LLC and TWENTIETH CENTURY FOX FILM CORPORATION.

藤田 スピルバーグ監督の久々の新作『ブリッジ・オブ・スパイ』。脚本が、あのコーエン兄弟で、第二次世界大戦の直後、冷戦期を舞台にした、実話ベースのスパイものですね。……いきなり断言しちゃおうと思いますがこれは、傑作だと思います。

飯田 めっちゃいい映画ですよね。
 1957年、ソ連のスパイの弁護をむりやり任されたジムが、アメリカ国民の誰もがスパイの死刑を望むなか、合衆国憲法を盾に法廷で戦い非国民扱いをされて自宅に銃弾が撃ち込まれたりするなか、立場を変えることなく、裁判官などと裏でネゴしながら、スパイの電気椅子送りを回避する。ジムの事前の予想どおり、ソ連のスパイは、同じく敵国に捕まった米国の諜報員との交換材料になり、ジムは東西ドイツが壁によって分断されつつあるベルリンにて極秘裏の交渉の任を命じられる……と。
 スピルバーグは偉大な作品が多すぎるのでそれらと比較すると一番に名前が挙がる映画にはならないでしょうが、観てよかったと思える作品です。

藤田 まず、主人公の弁護士、ジムがいいですね。ルールを破ってでもソ連と戦いスパイを摘発する必要があるという「空気」になっているアメリカに対し、法律や憲法を守るための孤独な戦いをするわけですよね。その根拠として彼が言う台詞がイカしていて、「われわれ」と「彼ら」を分けるのは――ドイツ系やアイルランド系の二人の会話ですが、この二人が「アメリカ人」として同朋なのは――のは、憲法という「規則」に由来しているからであり、そこを揺らがせてしまってはいけない、ということなんですよね。

飯田 『マイノリティ・リポート』や『E.T』、『シンドラーのリスト』などでくりかえし描かれてきた「法の埒外に置かれ、何者でもない存在にさせられた者に寄り添う」というスピルバーグ的主題が今回も展開されていたし、やはり彼の映画にくりかえし出てくる「全員が同じ意見に振れたときは再考せよ」というユダヤ的な教え(あるいは「多数決が必ずしも民主主義の本質ではない」という思想)がある。

藤田 第二次世界大戦のときに行われたユダヤ人への迫害は、民主主義的に多数決を経て政権を握った人たちによって行われましたからね。

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