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今夜3話「火村英生の推理」シャングリラ十字軍ってなんだ

2016年1月31日 10時00分 ライター情報:杉江松恋
今夜第3話が放映されるTVドラマ「臨床犯罪学者 火村英生の推理」、先週の第2話「異形の客」の原作は『暗い宿』所収の同題短篇だった。作者は、現代を代表するミステリー作家の1人・有栖川有栖である。

『暗い宿』は「ホテル・旅館」を舞台とする作品を集めた短篇集で、単行本は2001年に刊行された。この作品集と姉妹関係にあるのが2014年に刊行された『怪しい店』である。有栖川の中には『暗い宿』刊行直後から「店」をモチーフとする連作の構想があったが、10年以上の歳月を経て結実することになった。2015年には、大阪・中之島のホテルを舞台とした長篇『鍵の掛かった男』も上梓している。
(原作についてはこちらを参照ください)
原作とドラマの違いについてはこちらを参照ください)

第2話で光ったのは手がかりの呈示の仕方だった


冒頭に火村英生の大家・時絵さんから暗号解読を依頼される場面があるが、これは「異形の客」原作にはない。その他は叙述の順序入れ替えはあるものの、ほぼ原作に沿った形でドラマ化が行われていた。
物語の中核をなす事件は、猛田温泉(原作の作者あとがきによれば、モデルは兵庫県・武田尾温泉)の旅館・中濃屋で起きる。ミステリー作家の有栖川有栖(以下、アリス)は、自主的に館詰めになって原稿を書くためにそこにやって来ていた。チェックイン時、アリスの前を奇怪な人物が横切っていった。顔全体に包帯を巻きつけてサングラスをかけ、目深に帽子までかぶっている不審極まりない姿だ。折しも街ではテロ組織・シャングリラ十字軍の指名手配犯が逃亡中であることが話題になっており、この異形の客もその一味ではないのか、と旅館の従業員たちは恐れる。
やがて事件が起きる。包帯男が宿から姿を消し、代わりに彼が泊まっていた部屋に若い男の絞殺死体が出現したのだ。状況から旅館の従業員と宿泊客全員に嫌疑がかかる。むろん、アリスもその1人である。

今回のドラマ化で感心したのは、視聴者に対する情報開示が可能な限り前倒しされていたことだ。原作ファンにはおわかりだと思うが、小説では後半で出てくる描写やエピソードが、序盤へと移されていた。放送時間の中に小説の内容を収めるためには部分的な要約を行わなければいけない。情報を前倒しし、さらに小説とは別の筋道で視聴者にヒントを与えることによって、わかりやすく尺が縮められていた。謎を伴う作品で出し惜しみせずに手がかりを提供するのは、実はとても勇気のいることなのである。

ライター情報

杉江松恋

1968年生まれ。小説書評と東方Projectに命を賭けるフリーライター。あちこちに連載しています。

URL:Twitter:@from41tohomania

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