今年もやってきました、細田守監督のアニメ映画『サマーウォーズ』が金曜ロードショーで放映される季節。本作を見るたびに胸に湧き起こる思いが二つ。
「大家族の描き方が納得いかない!」と「なんてスカッとするお話なんだ!」ということ。
「サマーウォーズ」の細田守は「大家族」認識が間違っている、面白すぎる
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この作品の表向きのあらすじは「大家族VSインターネット」。もう少し詳しく言うと、大家族が力を合わせてネットを乗っ取った悪の人工知能ラブマシーンに立ち向かう、となる。

当時のポスターにも「つながりこそが、ボクらの武器。」というキャッチの後ろに大家族が集合してたから、制作側の意図はそこにあったのは間違いない。大家族の「つながり」で、匿名の「つながり」であるネットに勝つというわけ。

そんなアニメで、中心にある「大家族」がおかしかったらつまらなくならない?

いや、だからこそ面白い!

細田監督アニメの楽しみ方は「監督が描きたいこと」と「作品ににじみ出てしまった結果」のズレにある。
前にも『おおかみこどもの雨と雪』をレビューしたが、本筋の「シングルマザーの子育て」が、「夫(オオカミ男)の遺体が清掃車に回収」というダイナミックな前フリに喰われていた。

それに現時点での最新作『バケモノの子』。バケモノの熊徹と人間の蓮、種族を超えた親子の心が通うさまを「熊徹の動きをなぞる蓮」という絵が物語る……というアニメならではの演出と、「何もかもセリフで説明する」副音声っぷりのチグハグさが楽しかった。

ものすごく見過ごせないことを無造作にやってのける、そこに細田監督の作家性あり! 「大家族の描写のおかしさ」もその不可欠なパーツなのだ。

「ネット」も「大家族」も異世界ファンタジー


主役であり、メインテーマでもある「大家族」とされる陣内家。祖先は武田家の家臣で舞台は長野県の上田市、つまりモデルは真田氏だ。サマー「ウォーズ」も真田家の戦った上田合戦や関ヶ原の戦いや大阪の陣にあやかったもの。


でも、ふだん陣内家の人たちの大半は、離れた場所に住んでいる。働く場所も新潟漁港、市ヶ谷駐屯地、名古屋市内などバラバラで、たまたま「当主であるおばあちゃん(陣内栄)」の誕生日だから」と集まってるにすぎない。正月や法事に一時的に集まった親戚を「大家族」って言いませんよね。

これは、細田監督が「大家族」のことをよく知らなかったからだ。そもそも、本作の発想は上田市にある奥さんの実家にあいさつに行き、「妻の親類の家族の繋がりに深い感銘を受けた」ことから生まれたという。で、細田監督が結婚されたのは『サマーウォーズ』公開のわずか2年前。
深い親戚づきあいする間もなく、裏も表も知り抜いたとは考えにくい。

だからこそ、創作にとってはよかった。対決する「ネット」も「大家族」も、どちらもよく分からない異世界ファンタジーとして等価であり、想像力を羽ばたかせることができたのだ。

「こまけぇこたぁいいんだよ」ノリで描かれるサイバースペース


本作における「ネット」である仮想世界OZの設定や描写も、たいがい無茶がある。時代は近未来、ではなくて平成22年(劇中に「上田わっしょい 平成22年7月31日』とある)。登録者数10億人、利用率は携帯電話の普及率とほぼ同じ。

これは別にいい。
2009年当時のFacebookやTwitterの数倍はあるが、「全世界に危機が及ぶ」ためには許されるハッタリだろう。それにFacebookの月刊利用者数は2017年現在で20億人間を突破、現実がアニメを追い越してしまったんだから。

が、「OZのアカウントと現実の人間の権限はほぼ等しいんです」「水道局員のアカウントを盗めば水道局のシステムを好きにできる」……ちょい待ち。インフラの管理までも、民間企業(おそらく)であるOZに丸投げしてちゃっていいの?

しかも日本に限らず、各国がこぞって? 劇中での混乱を見るかぎり、交通系統や消防署への連絡網まで握られていて、「政府ぐるみでOZに丸投げ」は疑いない。

百歩譲って国境を超えたGoogleみたいなOZにお任せしていたとしよう。それを保証する「世界一安全と言われるセキュリティ」とやらは、人間の手計算で破られてしまうレベル。
その一人だった主人公(まぁ間違えていたが)はアカウント乗っ取りの疑いをかけられるが、50人以上が解を導き出していたらおかげで無罪放免……50人に破られたら、よけいマズイよ!

別にそこを責める気はない。ネット、つまりサイバーワールドをどう描くかは、映像作家が何にも縛られずに自由であるべきだから。

『攻殻機動隊』で草薙素子が電脳空間に潜って攻性防壁にぶち当たったり、『トロン』で電脳空間をバイクで駆け回ったり、よく考えると「それってハッキングやウィルス退治の正確なビジュアル化なのか?」となる。

でも、それでいい。物理法則の及ばない異世界で、映像作家も観客も現実の制約から解き放たれて自由になれるんだから。「こまけぇこたぁいいんだよ」空間、それがサイバースペース。


「大家族」を見つめるナスDみたいなまなざし


かたや大家族も、細田監督にとってはサイバースペースと同じぐらい未知。遺産分与のゴタゴタや(そのために「先祖代々の資産はなくなった」設定にしてるはず)親戚の間で絶対にある「あいつより成功、あいつより不幸」のしがらみはさらっとスルーしている。

が、それゆえの面白さもある。都会で生まれ育った主人公の健二が、いきなり親戚一同の寄り合いに放り込まれたら、年齢も職業もバラバラ。でも、彼らの中にどこか通じあった遺伝子を感じ、にぎやかな雰囲気に飲まれていたらガキどもに絡まれ……という「食卓のリアリティ」は本物だ。

今の目で見ると、こうした健二の立ち位置は、「陸海空 こんな時間に地球征服するなんて』でアマゾンの奥地を体当たり取材するナスDとそっくり。アポ無しで(先輩に騙されて連れてこられ)現地の人に体当たり。見ることやること、困ることさえ新鮮な体験だ。

サイバースペースも大家族も「よく分からん」としてザックリ描ける、無神経と隣り合わせの豪快なクリエイティブ。細田監督の天然が最もポジティブに発揮された作品が『サマーウォーズ』なのである。


「政府の要人に電話をかけまくるおばあちゃん」は犠牲になったのだ


この映画における最大のツッコミどころは陣内栄、ヒロイン夏希の曾祖母にして陣内家の第16代当主。ラブマシーンによる最初の混乱のとき、消防員の家族やら、元教師の人脈により政財界の要人に電話をかけまくり。

え、現場の実情もよく知らない素人が 「何千、何万人って人が困ってる。ここで頑張らないでいつ頑張るんだい!」って、まさに頑張ってるプロに対していう? 電話対応してる間に、救えるはずの命もあるはず。それに「政治家の友人」が介入するのは、最近何かと話題ですよね。

でも、しょうがない。大家族VSネットの接点がなかったんだもの。よく分からない理屈でトラブルが収束する、その中心には上田家の家紋(栄のアバター)がいるらしい。おのれ上田家……とラブマシーンの興味を惹いて対立構図を作るために、おばあちゃんは犠牲になったのだ。

そうして力づくで「上田家VSラブマシーン」のマッチメイクが実現。なぜ一家族が全世界の危機に立ち向かう必要が?というのはヤボ。一応、おばあちゃんがの死因はインフラの混乱(狭心症の異常が医者に送られなかった)にあり、間接的にだがラブマシーンは「仇」なのだから、そこは筋が通ってる。

実は『シン・ゴジラ』と同じ「プロ集団VSスーパーモンスター」という構図


いよいよ戦争だ!という段になると、陣内家の女性陣は「戦争なんて」とソッポを向く。あれっ、ちっとも「大家族」で戦ってないよ?

最初の「ウォーズ」に参加するのは男性陣、というかプロばかり。格闘ゲームの世界的チャンピオン、発電機付きの漁船を持つ漁師、すぐにスーパーコンピュータを調達できるスゴイ電気屋さん、それに陸上自衛隊員で「ちょっと言えない」部署の一員(おそらく諜報関係者)。さらにラブマシーンを開発した侘助はスーパーハッカーときてる。一つの家族にエリート集まりすぎ!

主役は大家族というものの、実は超一流のプロ集団VS全世界を脅かすモンスターという構図。登場するメカも自衛隊の特殊車両(衛星単一通信可搬局装置)やら、スーパーコンピュータ(モデルはNEC製)も本物志向でリアリティを追求している。

これ、早すぎた『シン・ゴジラ』ですよ!

で、「大家族のきずな」が描かれるのは、その後に一緒に炊き出ししたり食事をしたり、ヒロインが一世一代の花札勝負するシーンでケータイ(OZの端末)を握りしめてるところだけ。細田監督、まるで「大家族」を信用してないですよね。

大家族をうたってファミリー映画の表向き。その一方で電脳空間でドラゴンボールみたいなバトル、『シン・ゴジラ』のリアリティ志向もあり、隕石(衛星)が故郷を滅ぼしかけるクライマックスで『君の名は。』まで先取り。このてんこ盛りで面白くないわけがない。

そしてヒロインと力を合わせるラストバトル。カズマが弱ったラブマシーンを叩きのめした瞬間に、健二がよろしくお願いしまぁぁぁす!!(セキュリティ解除)とやって結ばれる……いやカズマくんは男の子だったけど!

本来のヒロインの夏希が花札勝負以外では存在感がほとんどなく、少年の妖しい色気のあるカズマがよっぽど健二と「共同作業」してるおかしさ。この「口で言ってることと、画面で炸裂してるアニメの快感がチグハグ」というのが細田アニメの病みつきになる魅力なのです。
(多根清史)

「サマーウォーズ」キャスト、スタッフ、主題歌


神木 隆之介/桜庭 ななみ/富司純子/谷村美月/斎藤歩 ほか

監督:細田守
脚本:奥寺佐渡子
キャラクターデザイン:貞本義行
作画監督:青山浩行
美術:武重洋二
音楽:松本晃彦
アクション作画監督:西田達三
音楽:松本晃彦
主題歌:山下達郎「僕らの夏の夢」(ワーナーミュージック・ジャパン)
アニメーション制作:マッドハウス
日本テレビ放送網・マッドハウス 提携作品
製作:角川書店 ドリームパートナーズ ワーナー・ブラザース映画 読売テレビ放送 バップ
配給:ワーナー・ブラザース映画

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