オンラインフリーマーケット「ココナラ」では、イラストや映像制作、翻訳などユーザーが自分の特技を自由に出品することができる。オープンから約5年、いまやユーザー数35万人、成立取引約100万件を突破するサービスへと成長したが、ネット上では、「買い叩きにつながらないか」「業者による中抜きの温床とならないか」と不安視する声も上がっている。
イラスト、映像、ホームページ作成など請け負う
「『知識・スキル・経験』を気軽に売り買いできるオンラインフリーマーケット」をうたう「ココナラ」は、2012年7月にサービスを開始。初期費用や月会費は無料、サービス提供価格は500円からという気軽さが魅力だ。気軽だからこそ、イラスト・ロゴ・映像・キャッチコピー・ホームページの作成、ナレーション、翻訳、家庭教師、占いといったわりと王道なものから、「オススメのレストランを紹介します」や「神社参拝を代理します」といったユニークなものまで、出品内容は多岐にわたる。
単純に特技によって収入を得たいというよりも、自分の力を試す手段や、コミュニケーションの手段として出品しているユーザーも多そうだ。たとえば「似顔絵・イラスト」のカテゴリで最低価格500円を条件に検索をかけると、まだ若そうな出品者と落札者が顔文字を交えながら「イラスト、感動しました!」「こちらこそありがとうございます!」と交流しているのが見られて、なんだか心温まるものがある。
ただ、この「ココナラ」だが、ネット上で「スキルの買い叩きにつながらないか」「業者が受注した仕事を『ココナラ』を利用して安価に済ませ、ギャラの中抜きを行うのではないか」という指摘も上がっている。
「需給調整が適切に機能している」
こういった意見を「ココナラ」側はどのように受け止めているのか? 同社に問い合わせてみたところ、「需給調整が適切に機能していると考えており、クオリティの高いものが不当に安く販売されているという認識はありません」と回答された。
「クオリティが低いものは安く、高いものは値段が高くマッチングしております。
どうやら「ココナラ」では、不当にスキルが買い叩かれることはないらしい。では、同サービスを利用した中抜きが起こる危険性はどうだろうか?
「同じクオリティのものが他よりも安いから購入するというよりは、多少クオリティが低くても安く購入できるので、『ココナラ』を利用される方が多いです。もともとハイクオリティでビジネスをされている方の市場を奪っているとは、あまり考えられません」
これまで中抜きと言える事例が発見されたこともないのだろうか?
「クオリティと価格のバランスはとれているため、『ココナラ』で安く仕入れて、外で高く売るという行為は原則的に成立しないはずですし、発見した事例はありません。もし、そういった行為が存在するならば、クオリティが高いものを不当に安く仕入れたというよりは、むしろ本来安いものを不当に高く売っている行為と考えられます」
間接的に大問題につながっている?
「ココナラ」広報部の回答は、あくまで「マーケットプレイスでは、クオリティと価格が適切に調整されます。『ココナラ』の相場が安いと思われるハイクオリティの方は『ココナラ』で出品しなければいいですし、そういった方の仕事が安い値段のサービスによって奪われることもありません」というものだった。
しかし、間接的に影響を及ぼすことは充分考えられる。ライター業界では、それほどスキルは高くないが安価で仕事を請け負うライターが増加した結果、業界全体でギャラの相場が低下した。そのためスキルの低いライターが一層あふれて原稿の画一化が進み、いつしか“ライター”という職業自体が下に見られるようになり、さらにギャラの低下に拍車がかかり……という負のスパイラルの成れの果てが現在である。
とはいえ、ライター業界の現状はあくまで安易にコンテンツを作ろうとし安易に経費を削ろうとした媒体側・発注側の責任であり、「趣味の延長で仕事ができれば」と業界に足を踏み入れた新米ライターたちの責任ではない。
買い叩きや中抜きではなく、何かもっと大きな問題へとつながっているのではないか――。『ココナラ』を批判するわけでなく、クリエイティブ業全体で起きている、メリット/デメリット両方を持つ“流れ”の話である。繰り返しになるが、『ココナラ』が悪と言いたいのではない。その流れは『ココナラ』に象徴されるということなのだ。
(HEW)