Twitter上での人生相談が人気を集めるなど、世代を越えて人の悩みに向き合い続けて来た志茂田景樹さん。
志茂田さんから見て、現在と昔の若者の悩み方にはどのような変化があったのでしょうか。

お話を伺ってきました。

「合理的なばかりでは苦しくなってしまう」――志茂田景樹さんが語る、悩む若者たちの変遷

5月病のような状態が当たり前になった


「若者が何に悩むのかということについては、今も昔もそれほど変わっていないよ。けれど昔は今よりも、悩みを解決しやすかったり、将来に期待を抱きやすかった。今は社会が複雑化して、みんな生き方が手探り状態になっている感じを受ける。悩みの内容としては、恋愛をはじめとした人間関係や、将来への不安、働いている人だと心身の問題に悩む人も多いね」

――心身の問題ですか。

「不安や悩みは心身の状態と深く関係している。悩みがあれば体調も悪くなるよね。
僕らの時代には5月病という言葉が今よりも多く使われていた。4月から環境が変わると、新しい環境に適応出来るまでの1~2カ月の期間は、傍から見ていても『こいつ5月病だな』とはっきり分かるぐらい、元気がなく無気力になったり、体調を崩してしまいがちだった。だけど今は5月病という言い方を昔ほどしなくなった」

――確かに。それほど多くは聞かないかもしれません。

「なぜなら今の若い人は、いわゆる5月病のような状態が時期を問わず慢性化してしまっているから。元気がなく無気力、という状態が当たり前みたいになってしまっている。
当たり前になってしまっているから、元気がなかったり精神的に疲れてしまっていても、具合が悪いことに自分で気付きにくい。重い鬱病や双極性障害とかを発症する人も増えてしまったね。だから逆に、今の若い人たちが自分から『調子悪い』と口にする時は、上の世代が考えている調子の悪さよりも、だいぶ良くない状態になっているように思うよ」

――どうしてそのようになってしまったのでしょうか。

「社会の違いは大きいね。高度経済成長期でどんどん社会が発展していた時代は、例えば20代や30代で起業しようと考えた場合、先に同じことをやって成功したひとの真似をすれば、その人ほどではないにしても上手く行きやすかった。仮に失敗しても、何とかできるだろう、屋台でも引いて生きていくこともできるだろうと開き直れたから、チャレンジ精神のようなものも抱きやすかったし、明るい将来像を描きやすかった。
一方で今の時代は、失敗した時に開き直ろうとしてもなかなか難しい」

――再チャレンジの難しさについてはいろいろなところで言われています。

「今までになかったようなものを作り出せる人、考え出せる人にとってはチャンスの多い時代だけど、そうではない普通の人たちにとっては閉ざされている感じがあるなと思う。普通の人が夢を抱くことが難しい時代になってしまったと思うよ」


合理的に作られる現代の人間関係

 
――昔と今の若者と比較して、人間関係での悩み方という点での変化はありますか?

「今の20代や30代の人は、人の得手不得手というものをよく分かっているなと思う。例えばみんなで映画を作ろうという話になった時、昔の人たちは『俺はこれをやる』『いやこの役は私がやりたい』ということで、お互いになかなか譲り合わなかった。だけど今の人は『監督は誰々が適任だよね』『僕はこの担当をやるよ』といったふうに、それぞれに合った役割がすんなり決まっていく。そういうあたりは僕らの頃よりも合理的になった」

――確かに。争いというか、面倒ことはできる限り避けようという風潮は感じます。


「合理的にはなったけれど、心からの本音を出していこうということは少ない。居酒屋に集まって飲み会をやろうという時でも、人数が何人で、予算がいくら、店はどこにしよう、ということは合理的に素早く決めていける。だけどいざ当日、お店で飲んでいても、本当の本音を吐き出すことはあまりやらないね。みんな気分良く過ごしたいよな、だから空気を読んで出過ぎないようにしようなという暗黙の了解があるから、喧嘩や激しい議論に発展することは滅多にないんだけど、本当は吐き出せない本音や、不完全燃焼の部分を抱えている人は多い」
 
――おっしゃる通り。人に本音を語ること対する抵抗感はあります。昔の若者は違ったんでしょうか?

「僕らの頃は、本音を出し合って議論になって意見が対立して『てめえ表に出ろ!』となることも多かった。
だけどそうして熱くなって本音をぶつけ合う中で、唯一無二の友だちになっていることもあったよ」

――そんなやり取り、ドラマの中にしかないものだと思っていました。本当にあったんですね。

「今の子は友だちを作るにしても、熱くならずに作っているようにみえる。お互いの深い部分を掘り下げていくのではなく、自分に必要な役割を担ってもらえたり、新しい情報を交換できればそれが良いつながりというふうになっている。本当はいいたいのに、非合理だからいえない、喉まで出掛かったけど声に出すことができないみたいなものが多くなっているよね」

「合理的なばかりでは苦しくなってしまう」――志茂田景樹さんが語る、悩む若者たちの変遷


非合理な感情も外に出さないと苦しくなってしまう


――5月を過ぎても治らない5月病のような、慢性的な不調を抱えている若者が多いとのことですが、彼らが元気を取り戻すにはどうすれば良いのでしょうか?

「やっぱり発散することが大事だよ。だけど今の若い人は、新しい情報を取り込むことはとても上手く、それこそ合理的にやるんだけど、発散することがとても苦手だね。
内から外への発散ができないまま、外から内に情報を取り込むことは年中無休でやってる。それじゃあ疲れてしまう」

――発散ですか。どんなやり方があるのでしょうか?

「仕事の中で発散できる人もいるけど、仕事とは違う分野での発散がもっとできると良い。そしてやっぱり、ひとりで過ごしているとなかなか発散はできない。やっぱり人間関係の中で発散しないといけない。だから風穴を開けてみよう。人間関係が合理性や役割ばかりになると、非合理な感情を自分の心にある壁の中にしまいこんで苦しくなってしまう。その壁に風穴を開けることができれば良いんじゃないかと思うよ」

(辺川 銀)