ネット保守膨張の裏に安倍政権を応援するサクラやステマあり
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クラウドソーシングサービス「ランサーズ」にて、保守系のコミュニティサイトにおけるコメントが30円で発注されていることが発覚し、ネット上を騒がせています。

現在は制限がかかって閲覧することはできませんが、「政治系サイトのコメント欄への書き込み。
保守系の思想を持っている方」として、とりわけ以下のような人を対象として仕事が募集されていたようです。

「安倍政治を応援している方」
「テレビや新聞の左翼的な偏向報道が許せない方」
「産経新聞の論調に好感を持っている方」


エコーチェンバーが人工的に作られていた衝撃


発注者選考にかなり偏向があるにもかかわらず、メディアの報道を偏向と批判的に表現していることには笑ってしまいましたが、同じくクラウドソーシングサービスを展開する「クラウドワークス」でも、保守系のブログが1記事800円で発注されていたことがつい先日発覚しており、保守系のサイトで「サクラ」を利用しているのはおそらく他にもあるのでしょう。

保守系のテレビ番組「チャンネル桜」のように、保守系の人々は桜をそのアイコンに据えることが多いように感じていましたが、どうやら「サクラ」という行為にかなり寛容な人々も多いようです。

インターネットの世界は現実世界を超えて似たような価値観の人々が一か所に集まることができるため、閉ざされたコミュニティの中で同様の意見が繰り返し流されることで、あたかもそれが社会の多数派の意見や正しい意見のように思えてしまうことがあります。これまで何度か指摘しましたが、いわゆる「エコーチェンバー現象」と言われているものです。

それは本来、思想の近しい人々が集まることで自ずと発生するものとして考えられてきたわけですが、今回の一連のケースで人工的に作られている場合もあるということが判明し、衝撃を受けた人も少なくないはずです。

クラウドソーシングを批判しても意味が無い


ただし、一連の問題を「クラウドソーシングサービスのような新しい仕組みによって生まれた新しい問題」としてクラウドソーシングサービスを展開する企業を非難するのは間違いです。もちろん適切な対策を進める必要があるとは思いますが、彼らは問題を生じさせた張本人ではありません。


今回のようなケースに限らず、サクラやステルスマーケティングといった行為は昔から行われていました。むしろクラウドソーシングサービスが発達したことで、陰で行われていたブラックな取引がそのプラットフォームに乗っかったことで可視化されたというのが正しい見方だと思います。

逆に言えば、クラウドソーシング各社が対応することで、取引は再び闇の中で行われるようになるために、このようなインターネットにおける政治関連のサクラ対策やステルスマーケティング対策はこれからが本番と言えるでしょう。

それは昨年2016年に大きな騒動となった「WELQ問題」を見ても明らかです。DeNAが運営していたキュレーションサイト「WELQ」では、トンデモ医療系の記事や著作権を侵害するコピー記事が掲載され、その発注の一部がクラウドソーシングサービス経由で行われていたことも問題となりました。

その後、クラウドソーシング各社は対策を取り、大手企業が展開するキュレーションメディアも軒並みコンプライアンスを重視して閉鎖等の対策を始めましたが、それらの縛りを受けなくて済んでいる企業によるサイトでは非科学的なトンデモ記事が量産され続けているのが実態です。



WELQも保守系サイトも「心の貧困ビジネス」


結局のところ、そのような記事が蔓延る背景にあるのは、トンデモ医療系の記事や野党を見下して罵る記事を掲載すればアクセス数を稼ぐことができるからであり、ニーズが存在する限り、形を変えて問題が顕在化するのではないのでしょうか。

保守系のサイトを見ても、正常なネットリテラシーを持った人であれば、一目瞭然で「怪しい」「偏り過ぎている」「フェイクも混じっている」と思うはずですが、「世界がポストトゥルース(事実が重要視されないこと)を覆っている」と言われているように、それらのサイトの購読者は情報の信頼性を重視していない可能性が高い。

おそらく自己肯定感が低く、誰かを見下したくて仕方ない人たちが、権威主義や保守的思想に傾倒し、それらを掲げる記事やコメントを読んで溜飲を下げているのだと思われます。それゆえ、正常なネットリテラシーを持った人ならば信じないものまであっさりと信じ込んでしまうのでしょう。

WELQ問題でも、既存の医療網でカバーできていない不安定な状態にある人々に、トンデモ医療がつけ込んでいました。今回も構造としては非常に近いのでしょう。つまり、これらは「心の貧困ビジネス」であり、そのような視点から対策を行わなければならないと思うのです。


民進党は保守系サイトを根こそぎ訴えるべき


なお、これら一連の問題は「放っておけばよい」では決して済まされません。少しずつ膨張し、ひいては既存メディアの中まで広がっていきます。実際に既存メディアの中にも、ネトウヨ的思想を抱いたコメンテーターが平然と並んでいます。

そして最も歪んだ保守思想に侵されたのが産経新聞だと思うのです。産経新聞は昔から保守の立場ですが、15年前は今のように偏向報道が激しくなかった記憶があります。今では目を当てることも痛々しい記事が並んでいる状態です。


また、子供たちが当たり前にスマホで情報収集する時代です。それなのに、学校教育におけるメディアリテラシーは外部講師を招いた講演を年1回で済ませてしまうことも少なくありません。これでは、適切なリテラシーが育つはずがないでしょう。不安定な時期に前述のような保守系サイトに触れれば、あっという間に感化されてしまいます。まるで、孤立する移民がアルカイダやイスラム国に傾倒するように…

本来はしっかりと法的な規制を設けるべきだと思うのですが、残念ながら擁護される立場にある安倍政権は、規制に対して腰が重いことが考えられます。ですので、事実無根の記事を書かれた側が片っ端から名誉毀損の裁判を起こすのが良いのではないでしょうか? もちろん民進党や共産党等の野党もそれくらいやるべきでしょう。
現状の野党はネット空間とその影響力をあまりに甘く見過ぎていますから。
(勝部元気)