東京電力福島第1原発事故によって、国が指定した区域外から九州や沖縄に自主避難した人々の間に、現地の教育委員会からの"ある通達"が困惑をもたらしている。
これまでは特例措置として、自主避難した家族の児童については住民票を移動することなく現地の学校への通学が認められてきたが、来年度以降はこの"特例"が認められないというのだ。「だったら、住民票を移せばいいだけではないか」と指摘されそうだが、自主避難している母子にとってはそう単純な話ではない。場合によっては、避難先から追い出されるか、関東で離れて暮らす夫との離婚か、の"二者択一"を迫られるケースすらあり得るのだ。
法律上では義務教育の場合、転居を伴う転校の際には住民票の移動が必要。各地の教育委員会によって毎年編纂される学齢簿も住民票をベースに作られるため、転校と住民登録は一体のものだ。自主避難の児童については一時的な措置として、現地への住民登録なしでの通学が認められているが、それ以前に自主避難の母子の多くは住民票を移したがらないという。なぜか。小学生の息子を連れて那覇市に自主避難している横浜市の40代主婦は、こう事情を明かす。
「指定区域外からの自主避難ということで、『避難なんて大げさ』と夫や義父母などの周囲から必ずしも理解があるわけではないんです。避難している多くのママたちは周囲に必死で頼み込んだり、反対を押し切ったりしながら、肩身の狭い思いをして何とかここ(沖縄)で暮らしているのが実情。そんな状態なのに住民票を移したらどうなると思いますか。夫から『そんなにオレと離婚したいのか!』などとなじられたりして、たださえギクシャクしている夫婦仲がさらに険悪になってしまいかねません。教育委員会は、そんな自主避難者たちの事情をまったく分かっていないんです」
実際に、離婚に至ってしまったケースもある。東京から熊本市へ避難して小学生の娘と雇用促進住宅で暮らす30代主婦は、「もともと避難に大反対だった都内で暮らす夫から『住民票を移したら離婚だぞ!』と言われていたのですが、住民票を移さないと住宅から追い出されると匂わされ、教育委員会から半ば脅されるように泣く泣く住民登録したんです。その結果、離婚ということに。子どもの健康を守ることを第一に考えたあげくがこれですからね、本当に原発が憎いです」と憤る。
周囲の猛反対を押し切っての自主疎開に、夫が妻の自分に対する愛情を疑うという感情的なしこりもさることながら、住民票を移せない現実的な事情を抱える母子も存在する。…


