2013年度の定期採用で、応募条件として「岩波書店(から出版した)著者の紹介状あるいは社員の紹介があること」を掲げ、事実上コネのある学生しか採用しないと宣言した岩波書店。小宮山洋子厚生労働相が「公正な採用・選考に弊害があるという指摘かと思うので、早急に事実関係を把握したい」と問題視したり、「そんなに悪いことなのか」と同社の方針を肯定する意見も登場するなど、さまざまな形で物議を醸している。

しかし、同社の内情をよく知る人々は「何を今さら......」と冷めた目で見ている。

 近年の出版不況のあおりなのか、岩波書店では11年度の定期採用は行わなかった。ところが、である。毎年、多くの出版社が新人研修としてレジ打ちや陳列などの体験に利用している都内の某大手書店。そこには、昨年もちゃんと岩波書店の「新人」の姿もあったのだとか......。要は、定期採用は行わなかったが、コネ採用は行ったということらしい。

「これまでもコネ入社が当たり前だったんですから、わざわざ宣言するのもおかしな話ですよ」(ある書店員)

 そもそも、これまでも岩波書店の採用試験は書類選考の段階でかなり絞られており、早い話が、基本的に書類選考の先に進むことができるのはほぼ東大生のみ。よくて京大あたり、早稲田・慶応レベルだと少し難しいという風説がある。

「岩波書店は、福音館や医学書院と並んで、基本的に東大卒しか採用しないというのがもっぱらのウワサです。ですので、実際の応募条件は"著者の紹介状あるいは社員の紹介"がある"大学生"ではなく"紹介のある東大生"ということですね。ニュースを見た私大の学生が岩波書店から本を出している教授に頭を下げたりしているとしたら、罪な話ですよ」(中堅出版社社員)

 公正な採用選考もなにも、従来からハイレベルな足切りが存在するわけで、今さら公式に縁故採用を宣言した意図がわからない。

 そして、著者や社員の紹介と言いつつも、実際には、これまで岩波書店と濃い付き合いのある著者の紹介しか相手にされない様子。

「私の知る限り、過去5年余り採用された中に、岩波書店から何冊も本を出している東大教授のコネとおぼしき学生が必ずいるんです」(就職活動中の東大生)

 話を聞いた東大生が名指しするのは、人文社会科学系のある分野で多大な業績を挙げている(とされる)A教授。岩波書店からは、単行本や新書を何冊も出しているし、シリーズ物の共編著も手がけたりしている人物。「なるほど、この教授から"この学生を入社させてくれ"といわれたら岩波書店も断ることはできないだろうな」といえる人物だ。それに、岩波書店としても、よりネットワークが濃密になるわけだから、おいしい話である。

 古今東西の名著をそろえた岩波文庫をはじめとして、日本人の教養を担ってきた岩波書店。しかし、古典的な教養を大衆が忌避する昨今、売り上げも芳しくない。

片や、東大生で岩波書店から本を出している教授の紹介状がもらえるということは、イコール岩波書店の本の読者と考えて間違いない。「どうせ採用するんなら、ウチの会社のことをよく知っている人材」とするのは、経営判断としてしごく当然ではなかろうか。
(文=三途川昇天)
                                                                         


【関連記事】
「取次や再販制度はどうなる......!?」TPP参加は日本出版界壊滅への序曲か
「ビジネス書籍も氷河期時代に......」老舗出版社にも倒産ラッシュか?
「次の選考委員は町田康? 角田光代?」石原慎太郎辞任で芥川賞はどう変わるか?