一人前になるには何年もの修業が必要といわれる寿司職人の世界に昨年秋、衝撃が走った。なんと職人経験1年未満の職人しかいない店が、ミシュランガイドに掲載されたのだ。


これでは長年修業を積んだベテラン職人は、たまったものではない。3月31日放送のTBS特番「激突!!ニッポン仕事人:若手vsベテラン」で、修業を重んじるベテラン職人たちに対し、「長い修業なんて必要ない」とする若手職人が意見をぶつけあった。


■8年目でようやく握りに入る修業に意味はあるのか


すし屋の修業といえば、一般的に厳しいことで有名だ。明治創業の一流店では、1年目は掃除雑用のみ、2年目で野菜切り、3年目は魚の下処理、6年目シャリ炊き、8年目でようやく握りに入り、10年目にしてやっと客の前に立てるという。


ところが大阪市福島区の「鮨 千陽(ちはる)」の職人たちは、3か月寿司学校に通っただけ。卒業と同時に開店し、わずか11か月でミシュランガイドに掲載された。

土田秀信店長(31歳)は「3か月あればすべての寿司の技術を網羅できる」「長い修業は無意味」と語る。


寿司学校「飲食人大学」の講義は、先生がていねいに説明しながらお手本を示し、到達点をビジュアルで見せてから即実行に入る。握りを始めるのは、なんと2日目からだ。講師は「見て覚えろというのは効率が悪い進め方」と断じ、学校のやり方をこう説明した。


「ゴールを見据えて、こういう形になると分かってから逆算していくと、見て覚えろ世代より3倍速く覚えられます」「たくさん握らないと、上達しない」


■「マグロは業者に任せています」と恥じる様子もなく


しかしスタジオにベテラン代表として並んだ3人の熟練職人たちは、3か月と聞いて心底呆れ顔。大阪の店から中継されている若手職人たちに対し、この道48年の山縣正さん(67歳)は腹に据えかねる様子で、「魚河岸行ったことありますか? 穴子割けますか? コハダできますか?」などと矢継ぎ早に質問した。


「30~60種類の仕込みがあり、夏冬で違う。そんなに甘いもんじゃないんですよ」
「一年やって1回りだからね」


興奮で顔を赤くしたベテランの厳しい指摘に、若き店長は落ち着いて「学校ではポイントを押さえてやっているので」と返答。これにもベテラン山縣さんは、諭すように語り出した。


「忍耐力と辛抱ってことを覚えることも大事なんですね。最初に楽したら、後にもっと嫌な苦しいことがいっぱいありますよ。効率の問題じゃない」


さらに「マグロの目利きはできるんですか?」と質問すると、店長は「業者に任せています」とアッサリ。

これにはスタジオゲストたちも爆笑していた。


しかし、若き店長に恥じる様子はない。学校では目利きも習っており、マグロ以外の魚は毎朝魚河岸で仕入れている。仕込みは学校でもらったレシピ通り、季節に応じた魚、調理法でやっている。


■職人の寿命を決めるのは、伝統ではなく「客のニーズ」


その後もベテランは何とか若手のアラを見つけようと、店内を抜き打ちチェックしたり、店長に寿司を握らせたり。握りは「まあまあではないかな」と誉めたものの「本手返しはできるの?」と突っ込んだ。

江戸前寿司で基本の粋なシャリの握り型で、どうやら「客に魅せる技術も大事」と言いたいらしい。


対する若手は「本手返しも学校で習いました」と前置きしつつ、「ただ、いまのニーズに合わせて小手返しをやっています」と説明。握る手数が少ない小手返しは、フワッとした食感で素早く客に出せるのだという。


客のニーズは様々だが、彼は早くおいしいものを出すことをニーズと見ているのだ。常に淡々と質問に答える土田店長は、学校で習った技術で合理的に、しかしお客さんにおいしい寿司を出すことを第一に心掛けているようだった。


最終的にはベテランも店長の謙虚な姿勢に感心し、若い人が寿司職人の世界に入ってくることを歓迎していた。

職人が生き延びるのに必要なのは、伝統やベテランの評価ではなく、お客さんの支持だ。学校はすべてを教えてくれない。彼ら若手は、これから自分なりの経験を積んで、さらに腕を磨いていくのだろう。(ライター:okei)


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