無修正のわいせつ動画を海外の動画配信サイトに公開していたとして、制作会社「ピエロ」社長の陳美娟(67)ら計6人がわいせつ電磁的記録等送信頒布の疑いで警視庁に逮捕された。陳容疑者は年間300本ほどの動画を制作し、9年間で約14億円を売り上げていたといわれている。



 ピエロが作品を提供していたのは、「カリビアンコム」と「AVエンターテインメント」という二大海外サイトだった。日本の審査団体の審査を受けて流通するAVであれば性器にモザイクがかかっているが、こうした海外配信サイトの動画には修正が入っていない。出演するAV女優はほとんど日本人で、撮影も日本で行われているが、海外サーバーを経由して配信されているため、日本の法律は適用されないと思われていたためだ。

 そもそも海外配信サイトは、どのようにして発展してきたのか? 拙著『モザイクの向こう側』(双葉社)でも言及したが、そのビジネスの成り立ちから、現在の状況をご説明したい。

「もともと海外配信サイトがはやる前、1998~2000年にかけて、日本では異様にモザイクが薄い“薄消し”がブームになりました。薄消しの摘発後、その制作者たちが中華資本のAVエンターテインメントなどに依頼され、海外配信サイト用の動画を撮り始めたんです。
当初、出演していたのは無名の企画女優だったんですが、05年ぐらいから企画単体クラスが出るようになりました。理由はギャラです」(AV関係者)

 無修正の場合、通常の流通経路のAVよりもぬるい内容であっても、高額なギャラが支払われた。こうしたこともあって、その後、大手AVプロダクションがこぞって女優を海外配信サイトに出演させるようになった。

■海外配信サイトの勢いを止めた、静岡の事件

 一時期は表のAVを凌駕するほどの勢いを見せた海外配信サイトだったが、近年、その動きに陰りが見えていた。キッカケは、2013年11月30日、現役の小学校の非常勤講師(女性/当時27歳)が、わいせつ電磁的記録媒体頒布幇助容疑の罪状で逮捕されたことだった。

「同年1月、無修正動画とは知らずに出演させられていた20代の女性が静岡県警に被害を訴えたことから、県警はこの制作会社の内偵捜査を始めたんです。
そんな折、くだんの講師女性が、この会社との契約書にサインするのを確認。撮影後、動画と契約書を証拠に、逮捕に踏み切りました」(同)

 静岡県警と沼津署は、その後も捜査を続け、15年12月30日には、海外配信サイトに出演していた女優3人と、彼女たちが所属するプロダクションの社員、制作会社の男など8人を逮捕している。

「その無修正のシリーズはほぼ静岡で撮影されていたんですが、このときは、関係者が半年分の出演者の契約書などを自宅に置いたままにしていた。それが証拠となって、出演女優や関係者が片っ端から引っ張られた」(同)

 この摘発以降、多くのAVプロダクションは海外配信サイトから撤退した。あるプロダクションの関係者は、当時の状況を語る。

「あの事件後、顧問弁護士に言われたのは『たとえ海外で撮影しても、日本語のサイトだったら日本人向けの作品に出るとわかるからダメだ』ということでした。
そこで、うちは、海外から撤退しようという話になったんです。でも、違う事務所さんだと、捕まっても業務停止は1カ月ぐらいだからと、イケイケでやっているところはありました。やっぱり女の子はお金が欲しいからこの業界にいるわけで、無修正の需要はある。うちがやらないと言ったら、『お金が欲しいから移籍する』という子もいました」

 しかし今回の摘発で、さすがにどのプロダクションも、今後は女優を派遣するのをためらうだろう。実はこれには近年、世間を騒がせているAV出演強要問題も関係しているという。

「昨年6月、女優が出演強要の被害を訴え、大手AVプロダクションの関係者が逮捕されました。
その女優が出演していた作品の中に海外配信サイトがあって、ピエロにも捜査が入りました。実は、出演強要の被害事例の中にも、海外の件がたくさんあって、警察は対処を迫られていた。そこで、今回、警視庁と、かねてから海外配信サイトを捜査していた静岡県警と愛知県警が合同で捜査に当たり、ピエロを摘発したという流れでしょう」(前出・AV関係者)

 強要被害に遭った女優は、自身の作品をサイトから削除させたいと考えるが、国内ならまだしも、海外の場合、どこに連絡を取ればいいのかわからない。また、作品を削除させるために裁判しようとしても、会社は海外にあるため、海外で裁判しなければならない。こうしたことから、海外配信サイトをめぐってはトラブルが頻発しており、それは認定NPO法人「ヒューマンライツ・ナウ」(HRN)も被害報告事例の中で訴えていた。

 今後、海外配信サイトはどうなっていくのだろうか?

「この件で、確実に手を引くプロダクションは増えるでしょう。
ですが、海外に拠点を置くカリビアンコムやAVエンターテインメントの本丸が踏み込まれたわけではないし、警察もそこまでは手を出せません。なので細々と続いて、ほとぼりが冷めたら、また出演させるというプロダクションが増えていくのでは。まあ、カリビアンコムの社長は、日本に戻ってきたら逮捕されるから、海外でずっと暮らしているというウワサですけどね」(同)

 カネになる以上、やはりリスクを顧みずに手を出す者は途絶えないということか……。
(文=井川楊枝)