森友問題では安倍昭恵夫人の関与が明白になりながら、責任を秘書官に押し付けるかたちで収束をはかろうと躍起の安倍首相と官邸。だが、森友問題にとどまらず、安倍首相にとって最大のアキレス腱は「加計学園」問題だろう。



 すでに何度も報じているように、加計学園は安倍首相がいまも年に数回はゴルフや食事を共にし、「腹心の友」と呼ぶ加計孝太郎氏が理事長を務める学校法人だが、安倍首相の働きかけで巨額の血税が流れ込んだ疑惑が浮上しているのだ。

 もともと加計学園をめぐっては、同法人が運営する岡山理科大が愛媛県今治市で獣医学部新設を申請するも、文部科学省が獣医学部の新設を求めておらず、過去15回も国に撥ねつけられてきた。ところが、安倍首相が総理に返り咲いた後はトントン拍子で話が進み、2015年12月に今治市を国家戦略特区に定めて規制緩和。52年間にわたって認められてこなかった獣医学部の新設が決まったのだ。くわえて、同大学には約37億円の価格がついている市有地が無償譲渡され、愛媛県と今治市によって最大96億円が助成されるというのである。

 さらに、3月13日発売の「週刊現代」(講談社)は、加計氏の姉である加計美也子氏が理事長を務める加計学園グループ学校法人順正学園をめぐって、同法人が運営する吉備国際大学の南あわじ志知キャンパス開設に対しても、建物と合わせて評価額約30億円もの土地と最大13億3300万円の補助金が出ていると報じた。


 つまり、今治市の岡山理科大と合わせれば、176億円もの血税が加計学園グループに流れているというのだ。

 だが、こうした露骨なまでの"お友だち"の優遇を安倍首相は全面否定。3月13日に衆院予算委員会で社民党・福島瑞穂議員に加計学園疑惑の追及を受けると、「特定の人物を出して、何か政治的な力を加えたかのごとく質問して、あなた責任とれるんですか!」と激昂し、声を荒げた。

 立場が危うくなるとムキになってキレるのはこの総理の得意芸ではあるが、安倍首相が加計氏の名前を出されてこれほどまでに怒り狂ったのは、無論、この問題が"掘られては困る"案件であることの証左だ。

 現に、発売されたばかりの「文藝春秋」5月号に掲載されたノンフィクション作家・森功氏のレポートでは、岡山理科大の獣医学部新設にかんして、加計氏が"安倍首相の後ろ盾"があることを仄めかしていたことが記されているのだ。

 それは2014年3月13日のこと。
この日、加計氏は、岡山理科大の獣医学部新設に否定的見解を示してきた日本獣医師会を訪れ、同会の蔵内勇夫会長と、元農林水産副大臣である元衆議院議員・北村直人顧問と対面したという。

 前述したように、獣医学部の新設は国が認めておらず、何度も申請が撥ねつけられていたが、その背景には、日本獣医師会の強い反対があった。しかし、第二次安倍政権の発足後、潮目が変わり、2013年6月に安倍首相は国家戦略特区の創設を閣議決定。加計学園も特区指定と規制緩和に向けて働きかけを強めていく。

 そういう流れのなかで、加計氏の日本獣医師会訪問が実現したのだが、対面した蔵内氏と北村氏は「あなたは安倍さんから『獣医師会に行け』と指示されてやって来たんでしょ。ときの最高権力者がバックについている、すごいよね」と、加計氏に皮肉を言ったのだという。


 だが、この会談の模様をレポートする森氏は、こんな"情報"を明かすのだ。

〈実はこのとき「首相が後ろ盾になっているので獣医学部新設は大丈夫だ」と加計が胸を叩いたという話がある。実際、その議事録が存在するという説もある〉

「首相が後ろ盾になっているから大丈夫」──もし、ほんとうに加計氏がこう発言していたとしたら、やはり岡山理科大の獣医学部新設は安倍首相が「腹心の友」のために規制緩和をして認可のお膳立てをしたということになるだろう。そして、その議事録が存在するならば、安倍首相が"お友だちに便宜を図った"という証拠になる。

 森氏の取材に、北村氏は含みのある言葉を口にしている。

「議事録があったら、安倍政権がふっとんじゃうよ。
だから私は『ない』と答えるしかない。相手は自民党の党友でもある安倍さんですからね。私は旧田中派の議員でしたから、口利きだって駄目だとは言いません。『安倍さんでしょ? あなたがたの後ろにいるのは』と尋ねたとき、加計さんはなんとなく頷いたかな」

 実際、安倍首相はこの後、加計学園の獣医学部新設のために露骨と言ってもいいくらいの動きをしている。2015年12月には、今治市を全国10番目の国家戦略特区にすると決め、16年11月には獣医学部の新設に向けた制度見直しを表明。そして、以前から獣医師学部新設の規制緩和を訴え、安倍首相が「教育再生実行会議」の有識者メンバーに抜擢したこともある前愛媛県知事・加戸守行氏を国家戦略特区会議の今治市分科会委員に任命しているのだ。
まさに「後ろ盾」という表現がぴったりの利益誘導としか言いようがない。

 さらに、森氏のレポートは、安倍首相側近閣僚(当時)の関与についても指摘している。

〈当日の午後、加計たちはその足で文科大臣(当時)の下村博文のもとを訪ねている。元来、文科省には、医師、歯科医師、獣医師、船舶職員の四職種について新たな学部の新設や増設を認めないという告示が存在してきたが、やがてその告示が見直された〉

 下村元文科相といえば安倍首相の"お友だち閣僚の筆頭"と呼ばれていたほどだが、夫人である今日子氏は加計グループである「英数学館小学校」(広島県福山市)の説明会パンフレットに安倍昭恵夫人とともに挨拶文を寄せていたことがすでに判明している。また、同レポートでも、安倍首相夫妻の訪米には加計氏と今日子夫人が同行していたことを伝えている。

 安倍首相本人だけではなく、安倍首相の人脈である下村夫妻の関与も疑われる、この加計学園問題。
いや、加計学園疑惑を追うと、安倍首相の人脈が多々浮かび上がってくる。現に、加計学園の理事と同学園の運営する千葉科学大学学長に就いている木曽功氏は、一時、第二次安倍内閣の内閣官房参与を務めていた元文部科学官僚。安倍首相がゴリ押しした「明治日本の産業革命遺産」のユネスコ世界遺産登録にも携わった人物だ。また、安倍首相は昨年、加計学園の監事だった木澤克之氏を最高裁判事に任命するなど異例の人事まで行っているのだ。

 さらに、加計学園は2004年に前出の千葉科学大学を千葉県銚子市に開校したが、同大設置の際には、安倍首相が実際に加計氏のために動いていたという情報もある。森氏のレポートでは、安倍・加計氏と旧知の大学関係者がこう証言している。

「大学は都心から電車で二時間くらいかかるし、教員のなり手がない。それで安倍さんがいろんな人に声をかけていました。安倍さんの口利きで一年間だけ教授になってもらった人もいるほどです」
「なにより、キャンパスの用地取得を巡って、地元と揉めたんです。それで、安倍さんは『俺があいだに入ってあげて何とかなったんだよ』と自慢していたことがありました」

 この証言は安倍首相がいかに加計氏のビジネスをアシストしてきたかを物語っているが、同大の元教授も、開校時の宣伝文句についてこんな話をしている。

「学園側の常套句が、『将来の総理がバックアップする学校です、就職率も一〇〇パーセント』。そうして大学をPRしていました。これだけ安倍さんと関係が深いんだと」

 じつはもうひとつ、安倍首相と加計氏の深い関係を示唆する証言がある。それは昭恵夫人の2015年12月24日のFacebookへの投稿だ。この日、安倍首相は昭恵夫人を伴って、当の加計氏や三井住友銀行副頭取(当時)の高橋精一郎氏、鉄鋼ビルディング専務の増岡一郎氏らと会食しているが、昭恵夫人は安倍首相と加計氏らがシェリーグラスを片手に肩を並べる写真を、こんな一文とともに投稿している。

〈クリスマスイブ。男たちの悪巧み...(?)〉

 一体、「悪巧み」とは何のことなのか。ちなみに安倍首相は、この会食の9日前である2015年12月15日に、国家戦略特区諮問会議において今治市を全国10番目の特区にすることを決定。加計氏にとって特区の決定は獣医学部新設を約束されたも同然で、昭恵夫人のいう〈悪巧み〉とは、もしや安倍首相と加計氏が今後の計略をめぐらせていたのでは......と想像を喚起させるものだ。

 安倍首相は「森友問題よりも加計問題の追及を恐れている」とも報じられているが、官邸は森友問題を収束させることで加計問題も追及を封じ込める算段であることは明白だ。しかし、政治の私物化という意味では森友も加計も本質は同じ。追及の手を緩めることはあってはならないだろう。
(編集部)