いよいよクライマックスシリーズも大詰め、セ・リーグは前年最下位のチームが巨人を迎え撃ち、日本シリーズ進出なるかが注目だ。

本塁打王、盗塁王、最高出塁率の3タイトルにトリプルスリーも獲得した山田哲人(てつと)を筆頭に、粒ぞろいの選手がそろいリーグ優勝したヤクルトスワローズ。


そんな個性派集団を率いるのは、今季から就任した生え抜きの真中満(まなかみつる)監督。12球団の監督の中で最も若く、どちらかといえば地味な存在だ。

外野手だった現役時代は主に1番打者として打率3割を2度マークしたが、通算1122安打と決して華々しい成績を残したわけではない。93年、95年、97年(いずれも野村克也監督)、01年(若松勉[つとむ]監督)と4度のリーグ優勝を経験しているとはいえ、古田敦也(あつや)、宮本慎也のように全国区のスター選手だったというわけでもない。

そんな男に、なぜ一軍監督の大役が巡ってきたのか?

「確かに、『真中で大丈夫なのか?』という声は球団内にもありました」

こう語るのは、ヤクルト球団関係者である。

「昨年、2年連続最下位の責任を取って小川淳司(じゅんじ)監督(現ヤクルトSD[シニアデイレクター])が退任。
チーム再建を託す後任候補には、指導経験豊富な人材として01年の日本一監督・若松氏に加え、コーチとして長い実績のある伊東昭光(あきみつ)二軍監督を推す声もありました。それでも最終的に親会社と球団社長が真中監督の就任を決断したのは、名前よりも育成手腕を買ってのことです」

真中監督は08年に現役引退後、二軍打撃コーチを2年、二軍監督を3年務め、13年にはイースタン・リーグ新記録のチーム得点数を叩き出して優勝に導いた。そして昨年、一軍チーフ打撃コーチに就任すると、二軍時代に鍛え上げた山田、雄平(ゆうへい)らを本格的に開花させ、ヤクルト打線はセ・リーグトップのチーム打率、得点数を記録したのだ。


真中監督には、チーム再建への明確な方針があった。

「ムダな自己犠牲は必要ない」

あるヤクルトOBが、その意図についてこう語る。

「ヤクルトの指導者やフロントには、今も90年代に黄金時代を築いた野村監督の『ID野球』を信奉するムードがあります。
ID野球の申し子といわれた古田氏が07年に引退してからも、野村イズムを継承する宮本がチームを牽引(けんいん)し、バントはもちろん、状況に応じた進塁打など、1点をいかに取るかというスキのない野球を選手に説き続けた。この宮本を信頼してリーダーに据えた小川前監督の下、11年にはリーグ優勝まであと一歩に迫りました。

ところが近年、チームは若返りが進み、“ゆとり世代”の選手が大半を占めるようになった。ノビノビと育ってきた彼らは、『ここで右打ちしなきゃ』などと考えると、妙に萎縮してしまう傾向があったんです。二軍で彼らを指導してきた真中監督は、打席での制約をなくし、選手が最大限の力を発揮できる環境をつくることがチーム再建につながると考えたわけです」

考え方は至ってシンプルだ。打者に対しては、「走者が一塁にいるからといって、無理に右打ちしてでも進塁打を、とは考えなくていい。
バントや進塁打が欲しい時はこちらから指示を出す。ファーストストライクから積極的に打っていこう」と伝えたという。

「昨年、一軍チーフ打撃コーチに就任してこの考えを浸透させた結果、打者は迷いがなくなりました。山田、川端(かわばた)慎吾、畠山和洋(はたけやまかずひろ)、雄平などポテンシャルの高い打者の才能が開花し、リーグ屈指の強力打線を形成。山田を始め、主力選手のほとんどは『制約がなく、自由に打たせてもらえるので本当にやりやすい』と話しています」(前出・ヤクルトOB)

●この続きは『週刊プレイボーイ』42号にてお読みいただけます。ヤクルトを爆発的に変えた“真中監督の兵法”を徹底分析!

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