人間に非常に近い種であるチンパンジーは、長年動物実験の格好の材料となってきた。動物の尊厳を無視した扱いは、チンパンジーの心に深い傷を残し様々な悲劇を生んできた。
40歳のメスのチンパンジー“フォクシー”もそんなトラウマを抱え、実験から解放された1頭だ。

1976年8月に誕生したチンパンジーのフォクシー(40)は、長い間狭い部屋に閉じ込められ、アメリカの製薬会社「バークシャー(Buckshire)」の肝炎ワクチン開発のための実験材料として扱われた。繁殖が可能となると、フォクシーは双子を含む4頭の赤ちゃんを産んでいる。しかし産まれたばかりの子どもは、数日のうちに人間によって取り上げられ、フォクシーがわが子を育てることは叶わなかった。

2008年、チンパンジーを利用した動物実験が下火となり、薬を作っても儲けが出なくなった製薬会社は研究を中止。行き場のなくなったフォクシーら7頭は同年、米ワシントン州クレエラムの「チンパンジー・サンクチュアリー・ノースウエスト」に引き取られた。


サンクチュアリーの運営者のひとりであるダイアナ・グッドリッチさんは当時をこう振り返る。

「施設に来たばかりのフォクシーは人間に異常な警戒を示し、ぬいぐるみやおもちゃを与えても一切興味を示しませんでした。でも鮮やかなピンクの髪を持つトロール人形だけは違ったのです。一目見るやまるで恋に落ちたようでした。」

トロールとはノルウェーに昔から伝わる妖精の一種で、そばに置くと幸運をもたらし願いが叶うと言われている。怖いような優しいような不思議な雰囲気を持つトロールだが、フォクシーはこの日以来、トロール人形を肌身離さず持つようになった。

ダイアナさんは「フォクシーはトロール人形を胸に抱いているときもあれば、口にくわえていることもあります。
時にはまるで母親のようにトロール人形を背中に乗せて動き回ります」と語る。

フォクシーのもとには支援者や訪問者から100を超えるトロール人形がギフトとして贈られてきており、フォクシーは毎日のようにそれらの人形と一緒に遊ぶ。

同施設のFacebookに投稿された、あるユーザーのコメントが胸を打つ。

「長い間自由を奪われてきたフォクシーが、やっと手に入れた彼女だけの宝物なのでしょう。」

人間の都合に振り回されてきたフォクシーの残りの人生が、愛に満ちたものであることを願わずにはいられない。

出典:http://www.hypedojo.com
(TechinsightJapan編集部 A.C.)