映画「ブラック・スワン」での名演が評価され、第83回アカデミー賞主演女優賞を獲得したナタリー・ポートマン(29)。授賞式には妊娠中のお腹をドレープで優美に包み込む、米デザイナーブランド「ロダルテ」の紫色のドレスで現れ、レッドカーペットの話題を独占した。
しかしナタリーといえば仏高級ブランドの「クリスチャン・ディオール」の「広告塔」のはず。しかし彼女がディオールのドレスを着なかったのには、やむを得ない理由があった…。

「ブラック・スワン」で共演したバレエダンサーのベンジャミン・ミルピエ(33)との間に第一子を妊娠、そして映画界の最高の栄誉であるオスカーを手にし、幸せ一杯のナタリー。大方の予想では、彼女がディオールの香水「ミス・ディオール・シェリー」のCMモデルを務め、同ブランドの広告塔であることから、アカデミー授賞式には、ディオールのドレスを着て現れるものと思われていた。

しかし蓋を開けてみれば彼女が着ていたのは、別のデザイナー「ロダルテ」のもの。ロダルテを選んだのは「ブラック・スワン」の衣装提供ブランドであり、デザイナー姉妹とナタリーが親しい関係だから、というのが表向きの理由だが、実際はディオール本社で起きているあの騒動が背景にあった。


その騒動とは、ディオールのクリエイティブ・デザイナー、ジョン・ガリアーノ氏(50=写真円内)のユダヤ人に対する差別的発言問題。ガリアーノ氏は24日夜、仏パリ・マレ地区のカフェ「ラ・ペルル」で、居合わせたユダヤ系の女性とアジア系の男性のカップルに「汚いユダヤ顔め、死ね。」「アジア人のばか野郎。」などと因縁をつけ、暴行を働いた疑いで警察に一時身柄を拘束された。ガリアーノ氏は当時かなり酒に酔っていて、差別的発言はしていないと主張しているが、ディオール本社ではガリアーノ氏をすぐに停職処分にし「反ユダヤ的、人種差別的な言動は許さない」と声明文を出した。

しかしその後すぐ英紙「The Sun」電子版に、ガリアーノ氏がパリの同じカフェで、「ヒットラーが好きだ」などと口走っているビデオが掲載され、動かぬ証拠が発覚。ビデオではガリアーノ氏が居合わせた客に「あなたのような人は死んだほうがいい。両親も毒ガスで殺されたほうがいい。」などと身も凍るような暴言を吐いている。


ディオールもとんだデザイナーを雇っていたものだが、ナタリーといえば、いわずとしれたイスラエル出身のユダヤ系アメリカ人。父方の曾祖父母はアウシュビッツ収容所で死亡しており、「私はアメリカを愛しているけれど、気持ちはエルサレムにあり、そこが本当の家。」と雑誌のインタビューで語ったこともある生粋のイスラエル人だ。今回「ロダルテ」のドレスを着たのは、授賞式の直前にガリアーノ氏の反ユダヤ発言事件が起きたため、急遽変更したと思われる。

しかし英紙「The Independent」によると、授賞式後に行われたナタリーへの記者会見で、こんな一幕があった。記者の一人が、「ディオールに高額のギャラで広告塔の契約を結んだあなたが、なぜきょうはロダルテを着ているの?」と、よせばいいのにナタリーに直撃質問。しかしナタリーが答える前に、アカデミーの広報担当者が「この質問はナシ」と記者を遮り、本人の回答はお蔵入りに。
また、事実を正確に記録することで有名なアカデミー協会が、会見後に配布した公式の記者会見スクリプトにも、この質疑応答は「なかったこと」として削除されているというのだ。

受賞の栄誉とはまったく別のところで、ケチがついてしまったナタリー。授賞式前のレッドカーペットでは、何となくナーバスそうな様子でインタビューに応じていたナタリーだが、それはこの「ディオール問題」で意見を求められることを恐れていたのかも?

その後ディオールはガリアーノ氏の解雇手続きを始めたことを発表、ナタリーは「彼の発言に深くショックを受け嫌悪感を持った。問題のビデオを考慮しユダヤ人として誇りを持つ個人として、ガリアーノ氏と今後は関わるつもりはない。」との声明文を出した。
(TechinsightJapan編集部 ブローン菜美)