今週末見るべき映画「人生万歳!」

2010年12月10日 09:00
 「マンハッタン」「アニー・ホール」などなど、ウディ・アレンの映画が好きである。自作自演、風采のあがらない中年男が、早口で饒舌、毒舌を吐く。インテリだからこその棘あるセリフは、世相はもちろん、見栄をはり、いい加減に妥協を重ねる人間を皮肉り、風刺する。  ウディ・アレン監督の40作目は「人生万歳!」(アルバトロス・フィルム配給)。ここしばらくは、「マッチポイント」や「それでも恋するバルセロナ」など、ロンドンやバルセロナが舞台の映画が続いたが、2004年に撮った「メリンダ・メリンダ」以来、舞台がニューヨークに戻る。ウディ・アレンは、監督に専念、その毒舌、皮肉は、さらにエスカレートしている。しかも地元のニューヨーク、いかにも自由に、楽しそうに撮っている雰囲気が伝わる。

 ノーベル物理学賞の候補になったことのある学者、自称天才のボリスが、仲間と語らっている。いきなりの毒舌。「宗教は金もうけ、ビジネスだ」「イエス・キリスト、カール・マルクスには、一つだけ欠陥がある、性善説という間違った前提だ」「人間は失敗した種だ」などなど、もう、言いたい放題である。例によって、カメラ目線で観客に語りかける。「安くないチケットを買い、プロデューサーをもうけさせている」。まあ、その通りなのだが。さらに、セルフ・パロディまでサービスする。「自分はいやな奴だ。この映画を見ても気分よくはならない」と。

 ボリスの父親は厭世自殺。だからボリスは言う。「カーツ大佐は“闇の奥”で、恐怖だ、恐怖だ、と言った。いまの新聞を見れば、カーツ大佐は自殺しただろう」。痛烈、痛快なイントロ、すっかり、ウディ・アレンの語り口に、引き込まれてしまう。ボリスは、IQが200もある天才、すでに人生を無意味なものと達観している。窓から飛び降り自殺を図るが、日よけにひっかかり未遂。裕福な建築家の妻と離婚、いまは、質素なアパートに一人暮らしだ。カフェでは、数少ない友人と、辛辣な世間話。近所の子供たちにチェスを教えているが、子供とその親をバカよばわり。

 そんなボリスのところに、南部の田舎町から家出した、メロディという若い女性が転がりこむ。ほどほどの美人だが、ボリスの言う皮肉を理解できない。「救いがたいバカだ」とボリスに言われても、まったく気にしない。ところが、親子ほども年の違うこの二人は、なんと、結婚してしまう。そこに、家出したメロデイを探しに、母親がニューヨークにやってくる。さらに、浮気した父親までが、よりを戻そうと、ニューヨークに現れる。ドラマは、一気に加速。やがて、ボリスとメロディ、メロディの両親、ボリスの友人たちが織りなす人間関係に広がっていく。本来、男と女が、鞘に納まるはずの関係が、原題の「Whatever Works」(なんでもあり)の状況になっていく。

 楽観的ではあるが、ジグソーパズルがピッタリはまるような、幸せなエンディング。もちろん、最後まで、皮肉たっぷりの「ウディ・アレン節」が冴えわたる。全編、抱腹絶倒のセリフの洪水。皮肉、揶揄がたっぷり、笑える。ボリスを演じるのは、ラリー・デヴィッド。テレビの「サタデー・ナイト・ライブ」の脚本を書いた才人で、本作の「ウディ・アレン節」を、こまやかに代弁する。

 メロディに扮するのは、エヴァン・レイチェル・ウッド。ややおバカさん役ながら、「マイ・フェア・レディ」のイライザといった役どころを、そつなく演じる。出色は、母親役のパトリシア・クラークソン。娘以上に変身を遂げるさまを達者に演じて、後半のドラマを支える。ウディ・アレン、75歳。健在である。


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