今週末見るべき映画「ヤコブへの手紙」

2011年1月14日 15:30
 旧約にしろ新約にしろ、ふだん、聖書を読むことはほとんどない。映画を見て、関連した箇所をひもとく程度である。「十戒」では、旧約の出エジプト記を、「天地創造」では旧約の創世記を、ざっと読んだくらいである。最近では、エルマンノ・オルミ監督の傑作「ポー川のひかり」を見て、新約聖書のヨハネとルカの福音書の一節、ヨハネはワインの奇跡、ルカは放蕩息子の帰還を読んだ。

 このほど、フィンランドの映画「ヤコブへの手紙」(アルシネテラン配給)を見て、まっさきに新約聖書の「コリント人への第一の手紙」を想い浮かべた。13章13節は「だから、引き続き残るのは、信仰、希望、愛、この三つ。このうち最も優れているのは、愛」で締めくくられる。

 映画は、いささか寓意的な形をとりながら、信仰と希望、愛について、静かにささやきかけてくる。ゆっくりとした運びながら、映画には、濃密な時間が流れる。

 老いた牧師のヤコブは、盲目である。人を雇って、毎日のように届く手紙を読んでもらい、返事の手紙を書いてもらっている。手紙の相談ごとにも、ひとつひとつ、丁寧に答え、神の加護を祈る一節を書き添える日々である。雇い人は老人ホームに入ることになり、ヤコブは、服役中のある女性の恩赦を願いでる。

 終身刑で服役中のレイラが釈放されることになる。そのいきさつを知らないレイラは、やむを得ず、ヤコブの古ぼけた家に身を寄せる。そして、なかばいやいやながら、ヤコブに届いた手紙を読み、ヤコブの返事を代筆し始める。そして、ある日を境に、ヤコブへの手紙が届かなくなる。

 はっきりと説明されない、不思議なことがいくつか描かれる。ヤコブが、結婚式といって出かけた教会には、人ひとり、いない。配達人の乗る自転車が、変わる。配達人と険悪な仲になるレイラだが、いったいどのような関係なのか… いくつかのシーンから、観客はその答えを想像することになる。そのような、不思議なことがいくつかありながら、しかし、ラストは、感動的である。レイラの過去が、あきらかになる場面が、みごとに描かれる。

 レイラに扮するカーリナ・ハザードは、俳優だけではなく、作家、シャーナリスト、教師などのキャリアのある才人。セリフこそ少ないが、その表情、きめ細やかな動きで、孤独の中年女性を力演する。

 静かな雰囲気に、サスペンスがある。信仰と愛について、ふと考えさせる説得力がある。これは、脚本、監督のクラウス・ハロの力量に負うところが大きい。ショパンのノクターンや、ベートーべンのト長調のメヌエットなどの音楽が、控えめに、効果的に使われる。巧みな音使いが、映画をさらに引き締める。

 コリント人への第一の手紙を、改めて読んでみた。第一の手紙の13章4節にこうある。「愛は寛容なもの、慈悲深いものは、愛。愛は、ねたまず、高ぶらず、誇らない」。

 全編ドキドキハラハラ、飛び出してくる映画も、たしかにおもしろい。が、たまには、このような、静謐な映画から、信仰について、愛について、さまざまに思いを馳せてみるのも、映画の楽しみのひとつと思う。


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