今週末見るべき映画 「湖のほとりで」

2009年7月17日 22:00
 北イタリアの静かな田舎町。住む人たちがどのような人なのかが、短いショットで描かれる。

 トラックに乗り込み、どこかに連れていかれる少女マルタ。ベッドで寝入っている若い女性アンナとその恋人。知的障害らしい男マリオとマルタのやりとりを、車椅子に座って見つめる老人。「あなたに、手紙を書く、書こうと…」途中から文字にならない不思議な手紙を読む初老の男…。

 冒頭からのミステリータッチで、引き込まれていく。「湖のほとりで」(アルシネテラン配給)は、北イタリアの美しい緑に囲まれた小さな村が舞台である。村はずれの美しい湖のほとりで、アンナの死体が発見される。まるで眠っているかのように横たわっている。抵抗した形跡はなく、首には手の跡があって、あきらかに他殺と思われる。しかも死体の様子から、アンナはその死を自ら受け入れたとも推測される。

 不思議な手紙を読んでいた男は、村に着任したばかりの警部である。捜査が始まる。アンナの恋人、知的障害の男、女性の通っていたホッケーチームのコーチ、アンナを溺愛していた父親、ベビーシッターをしていたアンナの雇い主の夫婦などなど、捜査が進むにつれて、いろんな人物に動機のあることが分かり始める。

 いったい、誰が、何のために、女性を殺害したのか。映画は、この謎に迫るとともに、捜査の過程で、この村に住む人たちが、家族同士や個人で、どのような問題や秘密を抱えながら、暮らしているのかが、少しずつ露わになっていく。

 みごとな演出である。しかも、静かなたたずまいの描写、ちょっとした短い会話から、重層的なサスペンスが生まれてくる。捜査を仕切る警部にも、進行性認知症の妻がいる。娘を母親に会わせることのできない苦悩を抱えている。

 殺人事件をきっかけに、露わになる人間の抱える苦悩を描きながら、作者のまなざしは、どこか優しく感じる。それは、人物描写の正確さに起因するものと思われる。登場人物の感情の変化、揺れが、過不足なく描かれているからであろう。 

 長編劇映画の初監督ながら、アンドレア・モライヨーリの演出は、滋味じゅうぶん、力量たっぷり。傑作「息子の部屋」などを撮ったナンニ・モレッティ監督のもとで、長くアシスタントを務めたキャリアも頷ける。

 警部を演じたトニ・セルヴィッロが、抜けてうまい。私生活の苦悩を抱えながらの事件捜査を、時には感情を抑え、時には露わに、まことにリアルに演じきる。

 リフレインを多用した音楽が、そう目立つことなく、サスペンスを効果的に高めて秀逸。派手さはないけれど、ゆっくり静かに、人の心の秘密、闇を描く。それでもなお、だからこそ、生きていく希望を感じさせる。これがイタリア映画の伝統だろうか。


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