今週末見るべき映画「セントアンナの奇跡」

2009年7月24日 23:00
 黒人への人種差別の怒りを描いた「ドゥ・ザ・ライト・シング」や、「マルコムX」など、さまざまな表現で黒人社会からの告発を描き続けているスパイク・リー監督の新作は「セントアンナの奇跡」(ショウゲート配給)である。

 1983年のニューヨークと、第2次世界大戦の戦火のまっただ中、1944年8月のイタリア、トスカーナが、時代と場所を超えて、ひとつのドラマとなる。壮大なスケールで、アメリカ兵とナチスの軍隊、降伏したイタリアにあって反ナチを貫くパルチザンによる北イタリア戦線の実情が、リアルに描かれる。

 アメリカの兵士は、バッファロー・ソルジャーと呼ばれる黒人たち。たまたま4人の兵士が、白人の上官による作戦ミスから本隊と離れてしまい、イタリアの少年を救助することになる。ふしぎな能力を持った少年と行動を共にするうちに、いくつかの「奇跡」が起こる。

 1983年のニューヨーク。黒人の郵便局員が、切手を買おうとした客を、持っていたピストルで射殺するところから映画は始まる。そして、黒人の家からは、イタリアのフィレンツェの名所サンタ・トリニータ橋を飾っていた行方不明だった彫像の頭部が発見される。いったい、なぜ、郵便局員は人を射殺し、彫像の頭部を隠し持っていたのか。

 時代は、1944年の北イタリア戦線に遡る。激しい戦闘で、アメリカの4人の黒人兵士がひとりの少年を救ったことから、予想もできない展開になっていく。

 ナチスが包囲する中、黒人兵士たちのの絶対絶命の状況が描かれる。しかも、ナチス軍は、反ナチのパルチザンを追う作戦を遂行、セントアンナでは、ナチスによる虐殺が行われていた。虐殺された市民の大半は、老人、女性、子供である。

 戦争の無意味さ、黒人差別の実情が、史実に基づいて、丹念に描かれる。印象的なシーンがある。村に滞在している兵士が語る。「アメリカではひどい差別がある。戦地のここにいるとなぜか心が安静になる」と。

 兵士たちが一時、身をかくしていた村に、ナチスの軍勢が押し寄せてくる。そのナチスの中にも、戦うことに疑問のある兵士がいるのである。

 首尾一貫、みごとな語り口で、ニューヨークとフィレンツェを結ぶドラマを演出したスパイク・リーの力量を感じる。もはや、黒人社会からの抗議の表現だけではない。スパイク・リーは、痛烈に黒人の怒りを代弁するだけでなく、戦争の無意味さを、だから人間の尊厳を、骨格あるドラマにして見せてくれた。


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