孤立した単調な生活は脳を縮小させる。南極調査隊員の脳の調査で明らかに

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 14ヶ月の南極滞在を経て調査隊は帰国の途についた。ーーすこし小さくなった脳と共に。


 『The New England Journal of Medicine』(12月5日付)に掲載された研究によると、調査隊隊員の南極滞在前後の脳をスキャンしたところ、脳が出発前よりも縮小していたそうだ。

 その原因は、長きにわたり、社会から孤立した単調な生活を営んでいたことによるものだと考えられている。
【隔絶された極寒の地での長い暮らし】

 隊員たちが滞在していたのは、南極北部のエクストローム氷棚にポツンと建てられた「ノイマイヤー基地III」だ。

 隊員は冬の間、たった9人で暮らしていた。基地には作業場、公共エリア、備蓄庫などがあったが、顔を合わせるのはいつも同じメンツで、一歩外に出ればそこは雪と氷しかない極寒の世界だ。
 
 文字通り「孤立」しており、脳の大好物である刺激には乏しい環境だった。


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【14か月の滞在後、脳が縮小していたことが判明】

 隊員たちは南極滞在前に大学病院でMRI検査を受け、さらに「脳由来神経栄養因子(BDNF)」というタンパク質を計測していた。

 BDNFには、新しい神経細胞の成長をうながす働きがあり、これがなければ海馬は新たに神経を結合することができない。

 また滞在中、隊員は定期的にBDNFレベルと認知能力の検査を受け、さらに帰還後にも再びMRI検査を受けた。

 こうした検査の結果から、14ヶ月の南極生活で、あろうことか隊員たちの海馬の体積とBDNFが減少してしまっていることが判明した。

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 特に変化が目立ったのは、学習と記憶を司る海馬の「歯状回」という領域で、隊員8名で縮小が確認された。この領域は、記憶を記録するためにニューロン新生が活発に生じているところなのだが、隊員たちの歯状回は平均4~10パーセント小さくなっていた。


 さらに歯状回の縮小が激しかった隊員ほど、出発前よりも空間処理や選択的注意といった認知能力が低下していることも確認された。

 海馬以外では、左海馬傍回(left parahippocampal gyrus)、右背外側前頭前皮質(right dorsolateral prefrontal cortex)、左眼窩前頭皮質(left orbitofrontal cortex)といった大脳皮質のいくつかの部位で縮小が見られた。

 またBDNFレベルは、滞在期間の4分の1が経過した頃にはすでに出発前の基準から減少しており、最終的には平均45パーセント少なくなっていた。
 
 BDNFレベルの減少が大きいほど、歯状回の縮小も大きい傾向にあり、帰還してからも1ヶ月半はそのまま回復しなかったという。

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ノイマイヤー基地III Felix Riess/wikimedia commons
【長期間の孤立は脳を衰えさせる】

 研究グループによると、調査対象となったのがわずか9名でしかないために、南極のどのような要素が環境遮断につながったのか断定はできないという。

 しかし、長期間孤立すると脳の機能が衰えてしまうらしいことは推測することができる。


 なお、こうした隊員たちの脳の変化は、動物実験からすでに予測されていた。変化や刺激がほとんどない単調な環境で暮らすネズミの脳でも、特に海馬において隊員たちと同じような変化が観察されているからだ。
 
 この結果を読んでドキッとしたそこのあなた。少し表に出て、社会と接点を持ち、脳に刺激を与えてあげるといいかもだ。

References:Lonely Antarctic Expeditions Shrink People's Brains | Live Science

記事全文はこちら:孤立した単調な生活は脳を縮小させる。南極調査隊員の脳の調査で明らかに http://karapaia.com/archives/52286083.html