ライター・編集者の飯田一史さんとSF・文芸評論家の藤田直哉さんが、いま話題のYouTuberの人気を分析するシリーズ。今回はラップ動画が人気のブライアンを取り上げます。

黒人とハーフの下ネタラッパー


日本人で初めてVineが10億回再生! 下ネタラップの天才・ブライアン

藤田 さて、YouTuber講座、今回はブライアンさん。ぼくは個人的に、今までで一番面白かったです。



飯田 ブライアンは下ネタラップがおもしろい黒人とのハーフのYouTuber/Vinerで、やはり中高生に人気です。最近、『フリースタイルダンジョン』が流行っているので日本語ラップ特集をする雑誌が絶えませんが、ブライアンを無視している媒体は全部くそと言い切っていいでしょう。こんな逸材を無視するだなんて目が腐っているとしか思えない。

藤田 ひどい下ネタのラップで、しかもうまい。音楽のトラックの使い方などもうまい。映像は、割と和風の木造の家の中で、荒っぽい動きをするカメラを使っていて、「洗練されている」わけじゃないんだけど、それが勢いになっていて、すごく面白い。全体的に、手作り感、自宅感があって、YouTuberらしいなって感じがする。元々、ヒップホップって最初から金にならないみたいな覚悟を決めてるからか、メジャーにならなくていいや的な投げやりと覚悟で、下ネタとか、パロディネタをやっているところが、潔い。
 ディズニーのエレクトリカル・パレードのトラックを改変した下ネタラップとか、サザエさんとか名探偵コナンの吹き替えを勝手にやるやつとか、酷くて面白い。FLASHの頃の、アナーキーなネットの感じがありましたね。しかも、ヒップホップ自体がうまいし、演技力もあるのがすごい。下ネタの物まねを連発するやつとか、腹を抱えました。

飯田 黒人とのハーフのミュージシャンと言えばダイナマイツ/村八分の山口冨士夫のむかしからいるわけですが、ブライアンがいちばん才能のムダ使いを感じましたね。

それこそバトルで有名なラッパーだとACEと対比になっているというか、ガチの雄とネタの雄という感じで見ています。

藤田 人種差別ネタも普通にギャグで入れてきているのがすごいですよね。

飯田 自分でネタにしてるんだよね。
ブライアンのYouTube動画でもっと再生回数の多い「全国の彼女が出来ない人にラップを作ってみた」はみうらじゅん/伊集院光的なDT力がヒップホップマナーに則って炸裂している傑作だと思うんですが、本人いわく「フリースタイルは苦手」だと。



つまり彼は「興奮すればただちにオナる」「強姦したならば俺はサイコ」「あれば元気100倍デリヘル天使宅配」といった歌詞を一生懸命考えて、練りに練ってからラップしていると。その姿を想像するだけでおかしい。

藤田 そうですね、見た目は黒人とのハーフで筋肉があって、そしてヒップホップやっているからモテそうなのに、モテないネタがかなり多いんですよね。インターネット的な非モテギャグや、ネット用語が随所に出てくる。そこが、愛嬌にもなっているし、ギャップにもなっていて、いいキャラですよね。ナード感とでもいうかな。

飯田 めちゃくちゃノリはいいやつなんだけど、引き出しは『ジョジョ』とか『NARUTO』とかのマンガだったり、アニメだったり、『MGS』や『COD』『シュタゲ』といったゲームだったりなんだよね。そしてメンタリティが完全に『稲中卓球部』。


藤田 『アメトーーク!』とかに出たら、すぐにでも売れそうな感じがしますけどね。そのぐらいの才能はあるかと思いますよ。「パクリたい0-1グランプリ」とか、年末年始の番組とかに出たら、意外とブレイクしそうw

下ネタやギャグを若者は求めているのか求めていないのか


飯田 ブライアンを見ていて思うのは、最近の若者は複数の調査で交際率・性交率が低下していることが明らかになっているわけですけど、当然ながら、性欲がなくなったわけではないんだな、と。下ネタにも需要はあると。
 でもTVや青年マンガではブライアン的な男子校ノリの下ネタは最近あまり見ない/流行っていないように思うんですよ。90年代まではよく見たのに。それこそ『稲中』とか。TVはコンプライアンスやクレーム回避を理由に性的なものを徐々に排するようになったし、マンガもかつてであれば中高大学生も読んでいた「青年誌」は30代以上が主たる購買層になっていて、露骨な下ネタギャグは幼いものに見える(人気が出ない)のだろうと。
例外的に『おそ松さん』は直球で童貞ネタをやってなぜか女子に人気が出てしまったわけですが……それをさておけば、YouTube/Vineではメジャーなメディアではやりにくくなったものが人気が出る傾向にあるけれども、下ネタを武器にするブライアンもまたその典型なのかなと。

藤田 ギャグマンガ自体が低調だと、うすた京介先生が語っていましたが……マンガ全体にその感じはあると思います。「萌え四コマ」的なのじゃなくて、もっとアナーキーなギャグマンガがメジャーな雑誌に普通にあった印象があるんですよね。下ネタも含めて。『ラッキーマン』とか、漫☆画太郎先生とかがジャンプに載っていましたからねぇ。ギャグ漫画ファンとしては少しさみしい限りですが。
 それが、ジャンプ読者に女性が増えてきたせいなのか、PC(ポリティカルコレクトネス=政治的な正しさ)的意識の広がりによる自主規制なのか、下ネタ的なギャグがそもそも読者に必要とされなくなってきているからなのかは、わかりませんが。しかし、確かにブライアンには、稲中的なノリがある。
 文化の主流がPC化していくと(つまり、漫画もいまや主流文化になったという認識でいいと思うのですが)、アンダーグラウンド的な要素のあるヒップホップやYouTuberなどの文化に反動が出てくるというのは、興味深い現象です。ただ抑えつけたり啓蒙しても、やはりどこかから欲望なり衝動なりは溢れ出てきてしまうのかなぁ、という観察上、興味深いという意味でですが。

ブライアンの言語感覚 ルイス・キャロルの子孫!?


飯田 ブライアンはVinerでもある(Twitterの壁紙はVineにしているからVineの方が本拠地だと思っているかもしれない)けど、大関れいかやけみおにも共通するVineの勝ちパターンのひとつである、6秒動画を3分割してカットを割ってツカミ、フリ、オチでループをつくっているものが多い。ただ大関れいかやけみおは変顔やキレテツなリアクションをウリにしているのに対して、ブライアンが得意とするのは「オチのない話をしたときの関西人のツッコミ」や「女に既読無視された時。」とかいった「あるあるネタ」や、『BLEACH』のキャラの声マネをして「アニメのキャラがヤるとき。」といったやっぱ下ネタなんだよね。マホトもたいがい下品だけどブライアンの性に対する言語感覚は天才的すぎてそこは比較にならない。

藤田 言語感覚はすごいですね。……ぼくの、歌舞伎町でバイトをしていた時代の観察による偏見なのですが、性とダジャレって何か繋がりがあるんですよ。風俗店の名前とか見ていると、ダジャレとかパロディが多い。性と言葉遊びが何故繋がるのかは、ぼくの中ではまだよくわかっていないのですが。
 文学的な方面で言えば、ルイス・キャロルの『不思議の国のアリス』も、原文で読むと、性的な隠喩やダジャレに満ちているらしいです。「性」と「言葉遊び」が繋がる何かの回路は確かに存在している。それに通じる才能を持っている方だと思いましたよ。

飯田 ブライアンはPC的にはアウトなんですよ。女性を性の対象として扱いまくるし、肌が黒いことネタにするし、漫画やアニメの下ネタパロディも多いし、政治的にも著作権的にも正しくないことばっかで笑いを取りに来る。でもそのプリミティブなネタ選びとワードセンスには抗いがたい魅力がある。

藤田 PC的に正しい、ということと、面白い、ということが、違うという好例ですね。ところで、ブライアンさんって、どういうバックグラウンドの方なんですか? 職業とか、わかります?

飯田 さあ……ちょっとわかりません。中学時代は不登校だったと動画で言っていたけど。

藤田「ラッパーで食えると思うなよ」みたいな発言とか、街中でラッパーに絡まれた話を演じているときに(相手役のセリフで)「オレ土方」みたいな発言があって、その辺りの「食えるとは最初から思ってないでやっている」的な自己言及が、YouTuberとしての自己への言及とも重なっていて、面白かった。

 その辺の、投げやりであるがゆえのカッコよさというのが、確かにある。世俗的な成功を目指していないような純粋さとすら言ってもいいのかもしれない。世捨て人的な作家というか。

オタクカルチャーとヒップホップとお笑いのキメラ


藤田 PCの話ですが、ブライアンさんのPC破りって、一歩間違えば、在特会的な、タブー破りの悪口を言う快楽に陥る危険があるところなのに、そうなっていないという絶妙なバランスがあると思うんですよ。自身がハーフで、顔の色を子供に「かりんとう」って言われたネタとか、自虐なんですよね。女性や友人をdisるときも、必ず「非モテのひがみ」みたいに、自虐のカッコに括られている。そのような、自身に向いた部分があるからこそ、PC的にアウトでも、きちんと「ユーモア」として、爽快感があるものとして成立できていると思うんですよね。

飯田 そうだね。「股間stand up」のくりかえしが爆笑な「クラブでお持ち帰りした時に失敗した話」は肝心なときにdickが使い物にならないという切実すぎる「あるある」話なんだけど、これも自虐だからね。


藤田 「クラブのお持ち帰り」の話は、「お前クラブでお持ち帰りできるのかよ!」っていう、童貞キャラとの乖離を感じて、ぼくはちょっとノレなかったw

飯田 EDで童貞なのかもしれないだろ!
ただたしかに「非モテ=童貞=オタ」みたいな古くさい記号はブライアンにはあてはまらないよね。文化的には本当にキメラだからもっと語られてしかるべきだと思う。「恋愛サーキュレーション」とかとはまったく違うスタイルで完全にアニメ的なものとラップが融合しているし、声優からお笑いまでのモノマネのスキルもはんぱないし。

藤田 モノマネうまいですよねw ルフィが掘られるときとか、大体、下ネタになるんだけど、バリエーションが多いw YouTubeにあるので言えば、「Twitterに上げた30秒動画をまとめてみた」のpart1と2が、モノマネでは酷くていいw


 特に2。今までのYouTuberってカメラが静止しているけど、ブライアンさんは、自分でちゃんと持って、動く。手ブレカメラを導入している。それで、リリックの盛り上がりとか、笑いに応じて動く。その映像の躍動感も特筆しておきたいところです。

飯田 フリースタイルダンジョン的なバトルの盛り上がりとはまた違う、日本語ラップの成熟を感じますね。あまりにも自然というか、お茶の間感がある。

藤田 ちゃんとラップの文化が、日本に根ざして、日本の文化を素材にして現在的に行われるようになってきたという感じですね。ブライアンさんの作品は、すごく馴染んでいる感じがしました。リアルタイムで進行している文化の定着と発展を見るのは楽しいですね。きっとこれから進化と先鋭化の時代も来るでしょう。楽しみです。

飯田 ブライアンにはぜひ漢さんの『ヒップホップドリーム』のパロディみたいな本をつくってほしいんですよ。というか構成やりたいですね。めっちゃおもしろいと思うけどなあ。日本で初めてVineで10億ループいったのがブライアンだから、十分すぎるくらいメジャーですよ!(あちこちの出版社にアピール)