90年代に人気を集めた大家族ホームドラマ『天までとどけ』。月~金曜午後1時から30分間のTBS系『愛の劇場』枠にて、91年の3月~5月に掛けて全60話を放送。
反響も上々で93年を除いて毎年シリーズ化し、99年のパート8まで続いた長寿番組だ。
新聞記者の父・雄平(綿引勝彦)と専業主婦の母・定子(岡江久美子)、そして12人の子供たち(パート1の最後に13人目が誕生)が暮らす丸山家の日常をにぎやかに描いている。

成長する子供たちに毎年出会える!


いわゆるビッグダディ的な連れ子同士の再婚ではなく、雄平との子供を12人も産んでいるどころか、心臓に病を抱えながらも13人目を産んでいる定子のタフさも凄いが、家計を支える雄平の財力も凄い。ツッコミ出せばキリがないが、毎年リアルに成長して行く子供たちを家族感覚で見守ったものである。

子供たちの名前は上から順番に、正平(しょうへい)、待子(まちこ)、信平(しんぺい)、公平(こうへい)、五郎(ごろう)、六都子(むつこ)、七穂子(なほこ)、八菜子(はなこ)、九(ひさし)、十郎(じゅうろう)、士郎(しろう)、十次郎(じゅうじろう)、十実子(とみこ)
5人目からはナンバリング形式ながら、そのネーミングセンスは秀逸。六都子から続く、次女、三女、四女の流れは見事で、九と書いて「ひさし」、11番目が士郎も技ありだ。
十郎、十次郎で弱冠ネタ切れ感もあるが、最後の十実子で綺麗に締めている。

意外な大物が意外な姿で出演!?


『愛の劇場』というドラマ枠にふさわしく、家族愛はもちろん、子供たちの恋愛模様も様々な形で描かれているが、大注目は長女・待子(若林志穂)の禁断の恋だ。
待子は高校3年生の時点で担任教師と結納を交わし、卒業と同時に結婚してしまう。しかも遠きアフリカの地、ザイールで暮らすという衝撃展開。この高校教師を演じていたのが若き日の竹内力だ。
爽やかな好青年といった面持ちで(でも、女子高生には手を出す)、後に「Vシネマの帝王」となる姿が想像できない。「竹内」よりも「竹野内」という苗字がふさわしい感じでシュッとしており、肌の黒さも脂分も少なめである。
パート2の時点で事故死した設定となり、その後の登場がないことも含めてレアキャラだ。

恋愛をクローズアップされた、次男の信平も印象深い。演じたのはデビュー間もない河相我聞で、パート1では中学3年生の役どころだ。学業優秀のため、後に医科大に進学。彼女との同棲が話の軸となり、親に打ち明けられないウブな姿を見せているが、実生活ではすでに子供が誕生していることを、リアルタイムの視聴者は誰も知らないのであった。
シリーズ中盤には売れっ子になったため留学設定となり、後半のシリーズでの出番は激減している。


殺人事件、転落死……出演者を襲った悲劇


ハートウォーミングなドラマだっただけに、出演者のその後に悲劇が続いたのが何ともやるせない。
長女・待子役の若林志穂は2001年の8月、自宅から稽古場に向かう途中で殺人事件に遭遇してしまう。警官と犯人がもみ合い、犯人は射殺、警官は刺殺されたショッキングな事件だ。若林本人の前に立ちふさがった、大きな刃物を持つ犯人。そして、鳴り響く銃声……。

彼女はPTSDを発症し芸能活動を休止してしまう。
その後、病院に通いながらも女優業を再開していた彼女をさらなる悲しみが襲うことになる。
2008年3月、次男・公平を演じていた金杉太朗が駅のホームから転落、意識が戻らないまま同年8月に亡くなったのだ。ドラマ同様、家族のような絆があっただけにその悲しみは深く、再び体調を崩してしまい、芸能界を完全に引退してしまった。

いつの時代でも人は「心がほっこりするドラマ」、「家族みんなで安心して楽しめるドラマ」を求めているのではないだろうか? 子供たちの非行、進学、就職問題も巧みに取り上げているこの作品。DVD化していただき、一人でも多くの方々に観ていただきたいものである。昼の時間帯にも関わらず高視聴率(パート6で最高視聴率19%)、をマークしていたのだから、ニーズはあるはず。

近年のDQN臭漂う大家族もののアンチテーゼとして、ぜひ!
(バーグマン田形)
天までとどけ―ああ大家族