阪神淡路大震災で開けて、地下鉄サリン事件以降のオウム真理教報道で熱狂した1995年。ドラマ『未成年』(TBS系)が放送された。


【『未成年』の脚本は野島伸司】


脚本は野島伸司。野島は第2回フジテレビヤングシナリオ大賞を受賞後、『君が嘘をついた』(フジテレビ系)などを執筆し、トレンディドラマの書き手として活躍。90年代になると『101回目のプロポーズ』や『愛という名のもとに』、『ひとつ屋根の下』(それぞれフジテレビ系)。といった泥臭くて暗いドラマや過激なストーリーを展開することになる。そんな野島の変化はバブル崩壊以降、不況の影がちらつきはじめた日本の空気とシンクロして、賛否も含めて多くの視聴者に受け入れられた。

中でも、高い評価を受けたのがTBSの金曜ドラマ枠で放送された「TBS野島伸司三部作」と言われている『高校教師』、『人間・失格~たとえばぼくが死んだら』、そして今回紹介する『未成年』だ。

【香取慎吾や浜崎あゆみも 豪華な『未成年』出演者】


物語は家にも学校にも居場所のない少年少女たちの青春群像劇。
父と不仲で兄に対してコンプレックスがある主人公の高校生・ヒロを演じた、いしだ壱成は、『放課後』(フジテレビ系)や『じゃじゃ馬ならし』といったフジテレビ系の若者向けドラマで注目された若手俳優のホープ。
当初は石田純一の息子ということが話題となったが、音楽や演技において才能を発揮されると、すぐに彼個人に注目が集まるようになっていった。
大家族ドラマ『天まで届け』(TBS系)の二男役で注目されて以降、数々の学園ドラマに出演していた河相我問は、受験のストレスでノイローゼ気味の進学高に通う優等生・神谷勤を演じた。
ヤクザのゴロを演じた反町隆史は後に『ビーチボーイズ』と『GTO』(ともにフジテレビ系)で後に大ブレイク。
知的障がい者のデクを演じたのは香取慎吾。まだSMAPが国民的アイドルグループとなる前で放送当初の注目度は決して高くはなかった。しかし、『未成年』が評価されて以降は、ピュアなイメージと鍛え上げられたワイルドな肉体を駆使した役柄を次々と演じるようになる。

ヒロの同級生だが劣等感を抱いている親友の順平を演じた北原雅樹は、現在は俳優業以外にもマルチな活動を展開している。当時はグレートチキンパワーズというお笑いユニットを組んでいた。
そしてTBSの野島三部作のすべてに出演している桜井幸子は心臓に重い病気を抱えている大学生のモカを演じた。桜井はTBSの野島伸司三部作に出演している当時の野島ドラマをもっとも象徴する」女優で、そのはかなげな笑顔とミステリアスな存在感で多くの視聴者を魅了した。
他にも当時はまだアイドルだった浜崎あゆみ。後に朝ドラ『すずらん』(NHK)のヒロインに抜擢され、今では恋多きお騒がせタレントとして有名な遠野凪子(現・遠野なぎこ)、俳優の谷原章介もいしだ壱成の兄の役で出演していた。


【オウム信者の姿と重なって見えた『未成年』登場人物】


物語は終盤になると比呂たちが様々な理由で家や学校から居場所がなくなり、社会を捨てて、山奥の廃校で共同生活をするようになる。しかし彼らの行動は誤解を受けて危険思想をもった過激派だと誤解されて、やがて機動隊に取り囲まれてしまう。
まるであさま山荘事件のパロディのような場面だが、おそらく年頭にあったのは当時報道が過激化していたオウム真理教の事件だろう。
少年少女が無垢で純粋なまま生きようとすればするほど、社会と衝突し居場所を失っていく『未成年』の登場人物の姿は当時、報道されていた出家したオウム信者たちの姿とどこか重なって見えた。そのため、物語が進めば比呂たちが社会を憎むテロリストとなってもおかしくなかった。

【奇妙な最終回だった『未成年』】


しかし、『未成年』は最後の最後で物語をかたることを放棄してしまう。最終話はヒロが学校の屋上で演説し、それを見た生徒たちや大人が説得されておしまいという中途半端な終わり方だった。
完成度の高い物語が破たんして作者の主張がむき出しになって終わる奇妙な最終回は、同時期に放送されていて、同じようにオウム真理教との共通点が指摘されていたロボットアニメ『新世紀エヴァンゲリオン』の最終話ともどこか重なるが、どちらも1995年の空気を体現した作品だったと言える。

ちなみにこの屋上の場面は、後にバラエティ番組『学校にいこう!』(TBS系)の「青年の主張」というコーナーでパロディにされた。

【野島伸司の『未成年』に対する回答は】


『未成年』以降も野島伸司は精力的に執筆しているが、作家としては『未成年』以降、どこか袋小路に陥ってしまったように見える。現在では『49』『お兄ちゃん、ガチャ』(ともに日本テレビ系)等のジャニーズアイドル主演のイケメンドラマで問題作を次々と発表しているが、当時のような大ヒット作は生み出していない。

今年、金曜ドラマ枠で放送された野島が脚本監修をおこなった(脚本は池田奈津子)『アルジャーノンに花束を』は世界中で大ヒットしたダニエル・キイスの小説が原作だが、ドラマ版は大きく脚色されており『未成年』のセルフリメイク的な作品だった。
いしだ壱成と河相我聞が大人として登場して主人公たちを見守る役割となっているのが象徴的だが、『未成年』のような、子どもたちが大人の社会と戦うような要素は薄く、むしろ子どもたちが共同生活をすることで楽園を作り上げることの楽しさが描かれていた。これは20年を経て辿り着いた野島伸司自身による『未成年』に対する回答なのだろう。

(成馬零一)