ドラマの登場人物が命を落とすシーンで、こんなに笑ったのは、今もなおこれを超えるもの、出会っていない気がする。

1992年に放送された、ドラマ『十年愛』。
主演は田中美佐子と浜田雅功。そこに大江千里や鈴木杏樹、斉藤慶子や木村一八らがからみ、それぞれの恋愛模様が描かれた。その中盤の第6話、大きなドラマが訪れる。

大江千里、死んじゃうのである。
劇中での主要キャストの死は、別に珍しくもなんともない。この死が伝説となったのは、その「死にざま」である。


【伝説になった大江千里の死にざま】


大江と田中の間に出来たひとり娘が、斉藤慶子演ずる大江の元妻らに誘拐されてしまう。娘を連れた斉藤が現れたのは、遊園地。そこに大江と浜田がかけつけたところ、娘はメリーゴーランドに乗っていた。

「誰にも知らせないって言ったじゃない!」
と斉藤慶子が逆上、なだめようとする浜田ともみ合いになったそのとき、斉藤が振り回した消化器が操作盤にぶつかったことで、その操作盤が火花をあげて「ボン!」。次の瞬間、メリーゴーランドはどんどん高速回転していってしまうのである(この流れがすでに何が何だかですが)。
娘、ピンチ! メリーゴーランドは止まらない。どうする、どうなる、といったところで、父親役である大江千里はかかんに高速メリーゴーランドに飛び込んだ。


【まるでコント? 感動的な場面が台無しに】


危険をかえりみず、娘を救う姿。本来なら感動的な場面だ。しかし、肝心の画面がなんともすっとぼけた空気なのである。ビュンビュン回転する木馬、しかし映像早回し。しかも、回転高速化とともに、ズンチャッチャというメリーゴーランドの音楽も一緒にどんどん早回しになっていく。これ、完全に志村けんとかのコントの手法である。

「ウワ〜!」とかいってメリーゴーランドの支柱に必死でしがみつく大江千里。
優しそうな雰囲気の大江の絶叫もまた、どこか脱力系の空気だ。そんな大江が、支柱につかまりながら真横に“ピーン”。そして高速でビュンビュン流れていく背景。合成もまた、「コント合成」的なのだ。

ますますスピードをあげるメリーゴーランド。最後は操作盤の爆発とともに、娘を抱きかかえたまま、大江は吹き飛ばされてしまう。
しかし、身を呈して抱きかかえて守ってくれた父のおかげで娘は軽いけがですんだ。しかし大江はといえば、そのままかえらぬ人となってしまったのである。

【最後までシュールだった『十年愛』】


それにしても浜田、よく笑わなかったものだ。「笑ってはいけない」シリーズの原型だったのではなかろうか、これ。
合成ということから、大江は一人スタジオかどこかでこれを熱演していたかもしれないと思うと、またさらに味わい深い気分になってくる。合成のときの演技に浜田がもし立ち会っていたなら、間違いなく「浜田、アウト!」だっただろう。


とどめのように病院に運ばれ、酸素マスクをつけられたりして昏睡状態になる大江だが、このとき、トレードマークのメガネをなぜかつけたままだったりするところもまた、シュールな場面に拍車をかける。
大江の死をのりこえ、終盤にむかって浜田と田中は愛をはぐくんでいくが、その後、悩む田中のもとに大江(の幽霊?)は時折現れ、田中をはげましていく存在になるが、それはそれでまた、ちょっと不思議な面白さに包まれていた。

最も緊張感あふれる感動の場面に「笑ってはいけない」をぶち込んだ作品として、今も記憶に残る「十年愛」。DVDボックスやオンデマンド動画でみることができるようなので、その名場面をぜひチェックして、笑わず耐えられるかどうか、確認してほしい(そういう用途じゃないか)。
(太田サトル)