今年の少年ジャンプは、かなり攻めの姿勢。なんと、6週連続で新連載がスタートしたのだ。
これは今世紀になって初めてのチャレンジ。長期連載が次々と終了して行く中、次世代の看板作品を作ろうと模索中のようである。

ジャンプがアンケート至上主義なのは広く知られたところ。読者人気が落ちれば、アニメ化されたような人気作品であっても打ち切って新連載を投入して行く。この姿勢はジャンプの伝統であるが、ひと昔前は本当に容赦なかった。
大ヒットを飛ばした大御所先生であっても、コケたら即打ち切り。
過去の実績で連載がプロテクトされないのが通例だった。

30年以上に渡って少年ジャンプを買い続けている筆者にとって、特に印象深い打ち切り作品が『サイレントナイト翔』。アニメ化もされ社会現象になるまで大ヒットした『聖闘士星矢』の後を受け、92年35号から連載が始まった車田正美先生の作品である。

『サイレントナイト翔』のストーリーとは?


人間のDNAにはまだ未知の領域が95%もあり、その部分は過去の進化の過程を記憶している。だから、生命の根源(ルーツ)に目覚めることで、動物や恐竜の能力を身に付けた姿に進化=「エボリューション」を遂げる。その能力に覚醒した少年・翔が、旧人類(一般人)抹殺を企む、神人類(エボリューション可能な選ばれし人類)による謎の組織「ネオ・ソサエティ」に戦いを挑む物語。

中2心をくすぐりまくりの設定がたまらない。

第1話早々、暴走族に絡まれた主人公が「爆裂拳―ッ!!」と叫ぶやいなや、取り囲んだ不良たちが四方に吹っ飛ばされるのだが、どんなアクションかは図解なし。この時点では普通の13歳のはずなのに、いきなり「黄金聖闘士」レベルの能力である。
いつもの車田テイスト全開の細かいことは気にしないスタイルだったのだが、その先が良くなかった……。

『サイレントナイト翔』と『聖闘士星矢』の類似点


そもそも、主人公の見た目は星矢とほぼ同じ。正義感の強い熱血タイプ、孤児、13歳という点も一緒だ。まぁ、これは車田作品のすべてに共通するフォーマットみたいなもの。
しかし、設定のほとんどが『聖闘士星矢』のリメイクというか使い回しだったのだ。
あからさまに『聖闘士星矢』の二番煎じなのである。

聖闘士(セイント)=神人類
青銅聖闘士(ブロンズセイント)=サイレントナイト
聖衣(クロス)=シェルター
小宇宙(コスモ)=フィール
○○座=○○がルーツ
聖域(サンクチュアリ)=ネオ・ソサエティ
ペガサス流星拳=ファルコン爆裂拳
アテナ=シスター

見開きを使っての聖衣の展開図(今作ではシェルター)も描かれているし、ぶっちゃけ、『聖闘士星矢』のコミックスに紛れていたら、別作品だと気付かないままに読み進めてしまえるレベル。

ラストには、仲間のキャラクターとしてドラゴン紫龍的な「タイガー皇虎(おうこ)」(往年の車田作品『風魔の小次郎』のような聖剣が武器)、アンドロメダ瞬的な「ピーコック涼」(フェニックス一輝の「鳳凰幻魔拳」のような必殺技を使用)が駆け付けるが、何ひとつ伏線を回収できぬままに打ち切りエンド。

結局、48号で連載終了。わずか13話(合併号含む)、コミックスで全2巻という短命作品となってしまった。

前作『男坂』の「未完」に続く「NEVER END」の結末


車田先生が「オレはこいつをかきたいために、漫画屋になったんだ!!」と語るほどに力を注いだ『男坂』という作品がある。
『聖闘士星矢』前の連載作品だ。
しかし、その意気込みに反してわずかコミックス3巻で打ち切り。最終回のラストページに刻まれた極太の「未完」の文字が、打ち切りのやるせなさを物語っていた。

そして、この『サイレントナイト翔』でも再び衝撃が走る。
コミックスには見開き2ページを使って「NEVER END」の文字が大きく刻まれていたのである。
最終話掲載のジャンプ巻末での作者コメント欄には「………………………………Good bye。」のひと言のみ。
この打ち切りを持って、少年ジャンプとの専属契約を解消した車田先生。様々な想いが込められた「…」があまりにも重すぎるのであった。

『男坂』が約30年の時を経て、まさかの復活を果たしたのが2014年のこと。もしかしたら、『サイレントナイト翔』の復活だって…!? 筆者はもちろん、期待して待っている一人である。

※イメージ画像はamazonよりSILENT KNIGHT 翔 1 (ジャンプコミックスDIGITAL)