先日、KOITO(小糸製作所)のCMのBGMクレジットで久しぶりにこの名前を発見した。
ジョー・リノイエ。
シンガーソングライターで音楽プロデューサーである。

90年代は、近藤真彦の『ミッドナイト・シャッフル』や、TOKIO『Julia』、鈴木雅之『きみがきみであるために』などのヒットが有名だ。しかし、何よりインパクトがあったのは、当時深夜にヘビロテされまくっていたあのCM曲に違いない。

「Let’s Go! Won’t you take my hand~♪」

そう、レオタード姿の女性が舞い踊る内容でお馴染みの武富士のCM曲である。

「あの曲は何だ!?」問い合わせが殺到!


タイトルは『Synchronized Love(シンクロナイズド・ラブ)』。ジョー・リノイエが作詞、作曲、歌までをこなした楽曲だ。
90年に始まったCM第1弾は、タイトな白いレオタードに身を包んだ女性トリオがセクシーにダンスを披露するもの。
揺れる胸元のアップが非常に目を引いたものである。

当時のジョーは、自身の歌がこのCMで流れるのが気恥ずかしく、早く打ち切って欲しかったと言う。しかし、全編英語のノリのいい楽曲に視聴者は興味津々。曲のクレジットがなかったことも、むしろ「何て言う曲なんだ!?」と問い合わせが殺到する要因に。本人の気持ちとは裏腹に人気に火が付いてしまったのだ。

ちなみに、この3人の女性の内の1人、三瀬真美子は後に『シェイプUPガールズ』のメンバーになったアイドル。
現在、細川茂樹の妻である。

苦肉の策から生まれた武富士ダンス


そもそも、なぜ金融会社のCMがダンスなのか?

消費者金融のテレビCMが流れるようになったのは88年からと言われている。しかし、消費者金融で借金することは反道徳的な行為とまでみなされていた時代。しかも、テレビの放送規定も厳しく、営業内容の告知に関しては様々なハードルがあったと言う。
そこで、「何のCMか分からなくても、もう一度見たい!とさえ思ってくれれば」と、ある意味開き直った発想がこのCMの原点となる。要は苦肉の策から生まれたイメージアップ戦略だったのだ。

実際、人気を受けてシリーズ化していったのだから、狙いは大成功。
CMとともに武富士の名は一般層に浸透して行く。

キムタクが完璧な武富士ダンスを披露していた


翌91年、ダンサーは男女混成の12人体制にスケールアップ。
この後、様々なバージョンが登場して人気を集めて行くが、その勢いはバラエティ番組にも飛び火。キャッチーなメロディと独特な振り付けはパロディの対象となった。

フジテレビ系『夢がMORI MORI』で、木村拓哉が完璧な武富士ダンスを披露したのはもはや伝説だ。
本当はSMAPメンバー全員がダンスを披露する予定だったが、難易度が異常に高いため、他のメンバーは断念。(森と香取は独自のアレンジバージョンを披露している)
そんな中、キムタクだけは意地でもやり遂げると練習を重ねたと言う。


ダンス後に「SMAPなめんなよ!」と見栄を切ったキムタク。当時から勝負強さはピカイチだった。
SMAPが国民的アイドルになるのは、もう少し先の事である。

まるで『キューティーハニー』!? 過激な衣装でさらなるブレイク!


この頃の武富士ダンスの衣装の露出は比較的抑え目の印象だった。
それが一変したのが98年。ダンサーが15人に拡大し、衣装も際どくアレンジされる。
薄紫色でラメが入った質感がどこかエロティックなレオタードは、ハイレグの角度がより鋭角になり、胸の辺りがひし形にザックリと開いてバストを強調。
まるで『キューティーハニー』である。

この過激さをメディアはこぞって取り上げた。人気にともない、『Synchronized Love(シンクロナイズド・ラブ)』のCDがバージョンアップされて再販され、各地のフィットネスクラブでもレッスンメニューに取り入れられるなど、曲&ダンスがあらためて注目されることに。「武富士ダンサーズ」の呼び名も付いて、一大ブームとなって行く。

ある事件によりダンスCMシリーズは自粛に……


2000年代に入ると、オーディションによりハイレベルなプロダンサーが厳選され、振り付けも一新。コスチュームもスポーティーなスタイルに進化して行く。

このダンスを授業で取り入れる小学校もあったりと、もはや文化のレベルにまで人気が拡大して行ったのだが……。

そんな中、当時の武富士会長がジャーナリストの自宅に盗聴器を仕掛けた事件に関与した疑いで逮捕されてしまう。これによりCMが自粛され、ブームはあっという間に沈静化してしまった。
その後、消費者金融CMに関する規制が強化されてしまい、「計画的な利用」を意識させる演出でないと放送できなくなってしまう。これにより、武富士のダンスCMシリーズはテレビから消滅してしまったのであった。

実は、2005年には、TRFのSAMらの振り付けによる大リニューアルバージョンが制作されているが、上記の規制により映画館とネット配信のみの公開。特に大きな話題とはならなかった。
結局、武富士は2010年に倒産。「ご利用は計画的に」できなかったようである。

※イメージ画像はamazonよりSYNCHRONIZED LOVE